「まだ死ねない」知的障害児を育てる桜井奈々「トキシックショック症候群」で生死をさまよった日々とブログで発信し続ける訳
── 娘さんのこだわりにはどのようなものがあるのでしょうか? 桜井さん:たとえば、コロナ禍のころからは手の消毒ジェルを、シャンプー前、シャンプー後、風呂上がり、といった具合に頻繁に使っていました。日焼けをすることに恐怖を感じていて、日焼け止めも過剰に塗りたくります。出先のお手洗いで全身に塗り倒すため20分も出てこなかったり(笑)、洋服もベタベタになって捨てたこともあります。大きい窓があるリビングでは朝ごはんを食べるのを嫌がり、自室で食べています。こだわりは移り変わっていくので、昨日まで大丈夫だったことが今日からはNGということや、その逆もあります。
命にかかわることの例では、娘にはすごく偏食があるので、具合が悪いときでも食べられるものや、飲めるものが限られます。昨今の熱中症対策に麦茶を持たせても、適温じゃないと一滴も飲まずに帰宅することも。本人が感じる「適温」に合わせるのが本当に大変です。学校で熱中症ぎみになったとき、保健室で経口補水液を飲めたことがありました。普段スポーツドリンクなど絶対に飲めない娘が、経口補水液を飲めたので、めちゃくちゃ褒めました。まさに命にかかわるものですから。
■障害のある人の現状や日常を知っている方を増やしてから死ななきゃ ── 桜井さんは12万人のフォロワーを抱えるブロガーとしてもご活躍ですが、ブログには娘さんのことを積極的に発信していらっしゃいます。 桜井さん:娘の障害が発覚した当時、一番知りたいのは「この先どうなるか」ということでした。同じ状況の先輩ママの話、特に女の子の障害は探しても見つけられませんでした。どこにもないから私がブログで発信を始めたんです。
でも、ブログを始めたいちばんの理由は、親亡き後のためです。「障害に興味を持ってくれる人と助けてくれる人をひとりでも増やしてから死ななきゃな」って。 ── ブログでは娘さんのリアルな失敗談などもユーモラスに書いていらっしゃいますね。 桜井さん:言い方が難しいですが、毎日が茶番と言いますか…(笑)。「こんなことあった」と悲観するより、ネタにして笑い飛ばしてのりきるしかないなって。以前通っていた病院で、障害がある子の保護者を集めて先生とディスカッションすることがあったんです。そのときの女医さんが本当にサバサバした先生で「何事もおもしろがってやらないと。真面目に受け止めていたら自分のメンタルが壊れるから、笑い飛ばすくらいがいい」っておっしゃって。そのときに「なるほど」と。実際に保護者のなかには精神科に通院されている方もいらっしゃるので…。この女医さんとの出会いとあの日の話があったから、なんとか楽しく生きてくることができました。