「医療が患者の数に負けかかっている」 病床増も、現場医師らに危機感 ―東京
現状は「医療崩壊」?
患者数の急速な拡大は「医療崩壊」を招くと言われます。では医療崩壊の定義はどのようなもので、どうすればそれを阻止できるのでしょうか。 尾崎会長は、「必要とする医療を受けられないで、人が命を落としてしまう状態を医療崩壊だと僕らは考えている」と述べ、重症・重篤の感染者に適切な医療が提供されない状態が「医療崩壊」に当たるのだと言います。 都の集計によると、入院中の新型コロナウイルス患者は1810人となっています。うち「軽症・中等症」が1779人、「重症」が31人です(4月11日午後9時現在)。 猪口副会長は、6日に同医師会が開いた記者会見で、統計上、感染者の8割が軽症者であると指摘した上で、軽症者を含めた感染者全員を入院させたままだと「医療人はそのベッドに必ず人員を割かなければいけなくなる。(病床が埋まり、人手が割かれているという意味では)現状はかなりひっ迫していると言っていい」と述べました。 一方で、重症患者数が24人(6日時点)だと指摘。東京では「最悪のシナリオ」として、「(今後)重症・重篤の患者が700人出るという想定で、ICU(集中治療室)を持っている病院と約束はできている」と話しました。重症患者への対応は可能で医療崩壊は起きていないものの、膨大な数の軽症者・無症状者が入院しているために医療提供体制がひっ迫しているのが今の状態だと言います。
医療体制維持するための2つのポイント
この現状に対し、尾崎会長は医療体制の維持に欠かせない2つのポイントを提示しました。1つ目は、軽症者の宿泊施設への移動を進め症状の重い患者に病床を譲ること。そして2つ目は医療従事者の感染防止や院内感染を防ぐためのマスクなどの支給です。 【軽症者の宿泊施設への移動】 軽症・無症状患者を病院以外の場所で療養させることについて、東京都医師会は政府による4月7日の「緊急事態宣言」より前から訴えていました。 6日の記者会見で、猪口副会長はこの新型コロナウイルスの特徴として、突然重症化する患者がいることを挙げ、ホテルへ移送する対象者は「治りかけの方、しばらく経過観察をした方を考えている」と説明。ホテルへ移った患者には、体温、血中酸素飽和度を各々で測ってもらった上で、スマートフォンなどを使ったテレビ電話で医師らと会話をしながら健康状態を管理していく手法を提示し、「医師会が全面的に協力する」としました。 東京都では4月7日から、都内のビジネスホテルに軽症・無症状患者の移送を始めています。7日に11人、8日に9人、9日に17人、10日に24人が都内の同じホテルに移されました。当初、新型コロナウイルス患者は原則として入院措置が取られましたが、厚生労働省によるルール変更により、軽症者・無症状者は都道府県が用意する宿泊施設で療養できるようになりました。 入院患者の全体数 (1810人)からすると少ない印象ですが、尾崎会長は「感染症のスペシャリストにも仲間に加わってもらって、ゾーニング(施設内の区分け)をしっかりする。『ここに感染者は入らない』とか『ここは交わる可能性がある部分』だといった具合に。このような事態はみんな初めてだからペースが遅いのも仕方ない。ただ、ここが上手くいき、モデルケースになれば、他の施設にも応用できる」と語ります。 ホテルへ入った患者の退院については、担当医師によって基準が分かれないようにマニュアルやチェックリストを作成したといいます。 【医療従事者の安全確保】 マスク不足は一般の生活者にとっても心配事ですが、病院でも備品不足は大きな問題になっていると尾崎会長は話します。そして、医療従事者が感染してしまうと、感染拡大防止のために隔離が必要になり、結果的に医療の受け皿が小さくなってしまうと警鐘を鳴らします。 「院内感染が始まると、(その病院に勤務する医師、看護師ら)みんな休まないといけなくなる。コロナと戦う“兵隊”が減ってしまうと、それはコロナの感染が拡大するのとは別の意味で医療崩壊につながる」 尾崎会長は語ります。 「これまでの院内感染の例を見ると、新型コロナウイルスの患者だと分かって対応した病院では起きていない。他の病気で運ばれてきた患者が実は感染していたという、『紛れ込み』から院内感染が起きている。そうなると、全ての患者が感染者かもしれないと思って対応しなければならなくなる。例えば、入院患者が500人いる病院で、患者・医師・看護師・事務職員など1500人がいれば、一日でマスクと手袋を1500個ずつ消費することになる」 実際、東京都医師会では3月下旬ごろに都内の病院やクリニックに対し、マスクや手袋などの備蓄がどのくらい残っているかアンケートを取ったところ、大半が「持って1か月」、早いところでは「あと1週間」の施設もあったそうです。 尾崎会長は「通常のインフルエンザなら治療法もあるが、新型コロナウイルスの場合は自分が感染したらどうなるか分からない、という怖さがある。防具やマスクを医療現場に送ってほしい。でないとコロナと戦えない」と訴えています。