時間外労働の規制、同一労働同一賃金、パワハラ防止――カギは「企業の繁栄」と「労働者の幸せ」の両立。組織の強みを引き出す、法との向き合い方
慢性的な長時間労働に歯止めをかける時間外労働の上限規制、雇用形態によらず仕事内容に見合う待遇を設ける同一労働同一賃金、そして、企業が職場のパワーハラスメント防止策を講じることを義務化したパワハラ防止法の施行。いずれも全ての労働者の働き方に深く関わり、経営への影響も大きい内容であるため、慎重な対応を迫られている組織も多いことでしょう。人事はこの法改正を、どのように捉えればよいのでしょうか。また、組織づくりにどう生かすべきなのでしょうか。学習院大学の守島基博さんに、法整備の背景やマネジメントへの活用のポイントをお聞きしました。 <2020年前後に適用の人事労務の主な法改正> ■時間外労働の上限規制 大企業:2019年4月1日から 中小企業:2020年4月1日から ■同一労働同一賃金 【労働者派遣法】2020年4月1日から 【パートタイム・有期雇用労働法】大企業:2020年4月1日から/中小企業:2021年4月1日から ■パワハラ防止措置の義務化 大企業:2020年6月1日から/中小企業:2022年4月1日から
“見えない格差”と労働慣習のひずみを解消する
――国はここ数年で、働き方の根幹にあたる部分の法整備を行いました。これにはどのような意図があるのでしょうか。 ひと言でいえば、長年にわたって蓄積した労働市場のひずみを解消しよう、ということだと思います。 長時間労働は、高度経済成長の頃から問題でした。当時は“モーレツ社員”や“企業戦士”といった言葉が生まれ、家庭や家族を顧みずに働くことを美徳としていた部分がありました。以降、週休二日制の普及や有給休暇の取得奨励など、キャンペーンや法令の制定などを繰り返してきましたが、抜本的なテコ入れが必要なタイミングに来ていたといえます。 同一労働同一賃金も、日本的雇用の陰の部分であり、以前から検討すべき課題でした。労働者の非正規雇用の割合が増えていく過程で、契約社員やパートタイム労働者が担う職務の範囲が拡大しました。業務内容について正社員との境界があいまいになる一方で、雇用の違いによる待遇格差が生じていました。背景にある思い入れは少し違ったのですが、同一労働同一賃金を欧米諸国では早くから導入していました。しかし、日本では放置されていたのが実情です。 パワハラは言葉自体比較的新しいものですが、昔から職権による圧力や叱責などはあって、働く人たちも「会社とはそういうもの」と解釈していたのでしょう。しかし、仕事を理由にいじめを正当化することなど、本来あってはならないことです。 パワハラ防止法には、セクハラやマタハラなども含まれます。今は多様性の時代です。企業もさまざまな属性をもち、価値観も異なる人々が集まる集団となりました。属性などによる格差がある状態では、企業の人材マネジメントが立ち行かなくなる時代になってきたということでしょう。 同一労働同一賃金も含んで、こうした法整備の裏側には“見えない格差の解消”がキーワードとして挙げられるのではないでしょうか。