バイデンが直面する"ファシズム前夜"というアメリカの現実
『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、バイデン新大統領が直面するアメリカの現状について語る。 * * * トランプ政権とはなんだったのか。アメリカの主要メディアがこぞってこの4年間を総括するなか、何人かの歴史研究家やジャーナリストが、先日のトランプ支持者による米連邦議会議事堂襲撃事件を「ミュンヘン一揆」になぞらえ、社会の状況が"ファシズム前夜"に似てきていると指摘しています。 ミュンヘン一揆は1923年、新興極右勢力「ドイツ闘争連盟」が起こしたクーデター未遂事件。当局による鎮圧後、首謀者だったアドルフ・ヒトラーは逮捕・投獄されました。 背景をもう少し詳しく説明すると、当時、ヒトラーの極端なナショナリズムはすでに一部の民衆から支持を得ており、右派政治家たちはヒトラーを"駒"として使おうとしていました。 第1次世界大戦の敗戦国として課された多額の賠償金で国内はハイパーインフレ状態、議会も多くの政党が乱立し大混乱――そうした状況下で、ヒトラーのパフォーマンスを内心では軽蔑しながらも、損得勘定で我田引水しようとした政治家がいたわけです。あいつには熱狂的な支持者がいるから、とりあえず取り込んでおこうと。 この構図はトランプを"利用"した共和党員と同じではないかというのが、冒頭で紹介した言説の要点です。軒先を貸したつもりが母屋(おもや)を乗っ取られる、あいつは道化(ピエロ)だと笑っているうちに本物のファシストがやって来る......そんな警鐘が鳴らされているわけです。 正直、ありがちな見立てだとも思います。それに、当時のドイツと現在のアメリカでは時代背景も地理的背景も大きく違います。ただ、ヒトラーだって確かに当初は道化(ピエロ)だった。笑いものが、笑いごとではなくなっていく過程があったのです。 ミュンヘン一揆の失敗を糧に、ヒトラーはストラテジーを転換し、民衆の憤懣(ふんまん)や社会不安に言論的な意味づけをすることでアジテート(扇動)を加速させていきました。虚実ない交ぜのユダヤ陰謀論を巧みに操り、ラジオや映画など最新のメディアも駆使し......。