東映ヤクザ映画の殺され役たちの「悲哀」と「底知れぬパワー」…日本映画史に残る「伝説のレコード」
アルバム制作の経緯と歌手としての転機
三上:何本も一緒に映画に出させてもらいながらいろいろと面倒を見てもらって、ピラニアの人たちには「本当にお世話になったなぁ」と感じていたんですよ。それでなにかお返しができないかなという、すごく純粋な発想です。レコード会社の人から「歌手をやめてディレクターになってみないか」と言われた時期でもあったしね。自分が歌うのではない形でレコードを作ることを考え始めていたんですわ。 そんな時にちょうどキングレコードの小池康之さん(当時:専務/キングベルウッドレコード代表取締役)と知り合って、「うちでやろう」と乗ってくれた。中島監督には「曲は私が書くんで、ピラニア軍団のレコードを作りませんか?」と、そんな話をしてできたアルバムです。うん、できちゃったんだよなぁ(笑)。いままた同じことをやろうったって、できないですよ。アレンジをしてくれた佐藤準と坂本龍一はスタッフに紹介してもらったんだけど、こういう時にはやっぱり似たような人たちが集まる。なんと言うか、エネルギーの塊だよね。みんなピラニア軍団に引き寄せられたんだ。 曲作りは、ほとんど歌い手に当て書きをするようにして進められたという。野口貴史が歌う「関さん」など、明らかに実在の人物をモデルにしていると思われる歌が、忘れがたい情感を呼び起こす。 三上:野口さんもそうだけど、顔を見ると映画が撮りたくなる。それぐらい映画の世界に生きていた人たちなんです。実際にピラニアのみなさんから直接聞いた話も曲にしてますよ。松本さんが歌う「悪いと思っています」もそう。本当に監督にすまないと思いながら歌ってますからね(笑)。それぞれの人に”それぞれの感じ”ってものがある。何十年もの付き合いというわけではなくて、1~2年という短い時間に撮影所で経験したことや感じたことを、「あの人はこういうところがいいんだよな……」なんて思いながら、そのイメージを曲にしていったのがよかったんでしょう。私と歌っている方の2人にしか意味のわからない歌詞も入れたりもしてね。志賀さんが歌う「役者稼業」。あれも実際の話ですよ。次の日が撮影だってのに朝まで飲んでて二日酔いでさ、楽屋で寝てるんですから(笑)。 「ソレカラドシタイブシ」に”冷かし”として参加し、随所で鋭いツッコミを入れているのは渡瀬恒彦。主演級のスターなので軍団のメンバーではないが、周囲のまとめ役で兄貴分のように頼れる存在だったという。もはや軍団の一員のようになっていた三上はある日、ある悩みを渡瀬に打ち明けた。 三上:「撮影所でこんなに面白い仕事ができるのなら、歌手はやめてもいいな」って。心が揺れていたんです。例によって撮影が終わってから、渡瀬さんと一緒にラーメン屋に行きまして、ワンタンメンを食べながら、ふと「実はオレ……これからは役者一本で行こうと思っているんです」と言ったら、「寛ちゃんは歌で出てきた人なんだから、歌でもう1回勝負しなきゃダメだよ」と言われたんですわ。その言葉がすごくグサっと来まして、「……そうか」と。渡瀬さんがきっかけで「音楽をやめちゃいけないんだ」と思い直しました。 「あの人たちと出会わなかったら、私はきっと音楽をやめていただろう」。ピラニア軍団について三上がそう語るのは、こんなやりとりがあったからだったのだ。東映京都撮影所でピラニア軍団と過ごした日々を、最後にこう振り返った。 三上:あと何回生まれ変わったとしても、きっと私はあそこに行くんだろうと思います。ピラニアのみなさんと、また一緒にメシを食いたいですね。本当に純粋なパワー。計算ずくで作ったんじゃなくて、魂のぶつかり合いとでもいうような瞬間でした。今になってこのアルバムが注目されるのはすごくわかりますよ。いつも新しい匂いがする、私の宝物です。 * 『ピラニア軍団』 岩尾正隆/片桐竜次/川谷拓三/小林稔侍/志賀勝/志茂山高也/白井孝史/高月忠/司裕介/寺内文夫/成瀬正/根岸一正/野口貴史/広瀬義宣/松本泰郎/室田日出男 応援団 渡瀬恒彦/橘麻紀 プロデューサー 中島貞夫/三上寛 【曲目】 1.その他大勢の仁義を抱いて(歌唱:志茂山高也) 2.役者稼業(歌唱:志賀勝) 3.悪いと思っています(歌唱:松本泰郎) 4.俺(れーお)(歌唱:成瀬正) 5.死んだがナ(歌唱:根岸一正) 6.だよね(歌唱:川谷拓三) 7.ソレカラドシタイブシ(歌唱:小林稔侍/白井孝史/寺内文夫/高月忠/広瀬義宣/片桐竜次 <冷かし>渡瀬恒彦) 8.はぐれピラニア(歌唱:岩尾正隆) 9.有難うございます(歌唱:室田日出男) 10.やめましょう(歌唱:司裕介) 11.菜の花ダモン(歌唱:橘麻紀) 12.村歌~わしゃ知らん節~(歌唱:ピラニア軍団) 13.関さん(歌唱:野口貴史)
真鍋 新一(映画評論家)