カナレット絵画に学ぶその時代で売れるもの 興味深い「お土産ビジネス」の今後、便利だが「物語」が少なくなり少し寂しく
【マネー秘宝館】 ヴェネツィアの風景画家カナレットの絵画展覧会が年末まで東京(SOMPO美術館)で開催中です。今回は私の「推し」であるカナレットのご紹介をしましょう。 彼はヴェネツィアで18世紀前半に活躍した風景画家です。同じく風景画家だった父親の背中を追いかけてこの道に入りました。 彼の風景画はとにかく描写が繊細かつ正確なんです。まるで写真のように細かいところまでしっかり描かれている。建物の窓枠まで手抜きなく表現されていて、その細かさに驚くばかり。細い筆どころか数本の毛で描いたんじゃないか、そしてハズキルーペ(拡大鏡)なしでこんな絵が描けるのか、と想像が膨らみます。かくも繊細でありながら、全体としては壮大かつ雄大な風景画となっているところ、それがカナレット風景画の魅力です。そのすばらしさはとても言葉では表現できません。皆さま、どうぞ実物をご覧になってくださいませ。 今回展示されているカナレット絵画、どこからやってきたかと出展先をみると、ロンドンあるいはスコットランドの美術館が多いのです。なぜヴェネツィア画家の描いた絵がイギリスにあるのでしょうか? その答えは「グランドツアー」の流行です。 18世紀のヨーロッパではグランドツアーと呼ばれる大修学旅行が流行しました。この旅行、出掛けるのは主としてイギリス人。すでに産業革命によって潤った「成り金」金持ちが登場していたイギリス、しかし成り金には引け目があるわけですよ。「金は手にしたが、俺には文化の教養がない」って。このままでは上流階級に入っていけない、彼らと仲良くできない。 そこでイギリス成り金はわが息子をイタリアに旅立たせるわけです。「息子よ、俺の分まで文化芸術を学んでこい」というわけです。ここで息子は短くても数カ月、長い場合には数年という時間を掛けて、馬車と徒歩で芸術の都かイタリアを目指します。 このグランドツアーの終着地がヴェネツィアでした。息子は到達したヴェネツィアで上機嫌のドンチャン騒ぎ。後はお土産を買って帰路に着くだけ。ここで高級お土産品として人気だったのがカナレットの描いたヴェネツィア風景画だったというわけです。 カメラのなかった当時、故郷イギリスの父母に「ヴェネツィアって、こんなところだったよ」と伝えたいじゃないですか。だから繊細かつ正確な描写が好まれたのです。息子からこの絵を見せてもらった父母は息子の思いやりと、見たことのないヴェネツィア絵画にさぞや感動したことでしょう。このような経緯から、カナレット絵画はイギリスの美術館に数多く所蔵されているのであります。