【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー 陰陽師×拝み屋バディのファンタジーなど、注目の新刊をピックアップ
『少女小説を知るための100冊』や『少女小説とSF』などの著作で知られる書評家の嵯峨景子が、近作の中から今読むべき注目のライト文芸をピックアップしてご紹介。今月は陰陽師×拝み屋のバディものに現代学園ミステリなど、5タイトルをセレクト。 【写真】ことのは文庫・佐藤理編集長インタビュー 「心に残る物語は、いつまでも長く愛される」 ▪️一ノ谷鈴『ようこそ修道院へ、ここは追放された女たちの楽園よ』（一迅社アイリスNEO） 荒野にたたずむ規律の厳しい修道院。ここでは高貴な身分の女性たちが、神に祈りを捧げて静かに暮らしている――というのはあくまで表向きの顔。その実態は、親や嫁ぎ先と反りが合わずに居場所を失った者が、若き院長ミランダのもとで自由に楽しく暮らす、訳あり女たちの楽園だった。修道院には婚約者に捨てられたみじめな令嬢や、不幸な婚約から逃れたい女性など、さまざまな苦しみを抱えた女たちが訪れる。修道女たちは、娯楽として集めている国中のゴシップ情報を武器に逆襲を仕掛け、迷える子羊たちの幸せを後押ししてあげるのだった。 『ようこそ修道院へ、ここは追放された女たちの楽園よ』という印象的なタイトルが目を引く本作は、互いに助け合いながら困難を乗り越える女たちの連帯を描く、上質なシスターフッド小説である。かつては自身も悩み苦しんだ乙女たちが、修道院で心の傷を癒やして強さを手に入れ、嘆き悲しむことしかできない無力な娘たちに知恵や世間に立ち向かうための力を授けていく。逆境から幸せを掴み、自らの手で未来を切り拓く女性の姿をパワフルかつ愉快に綴った物語に、読者も強く鼓舞されるはず。女たちの華麗なる逆転劇で心にパワーをチャージできる、痛快なエンタメ小説である。 ▪️歌峰由子『陰陽師と天狗眼 ―クシナダ異聞・怨鬼の章―』（ことのは文庫）11月28日 広島県の巴市を舞台に、公務員陰陽師とフリーの拝み屋がバディを組むもののけファンタジーの第4巻。 巴市役所の特殊自然災害（もののけトラブル）は、怪異にまつわるさまざまなトラブルを解決する、全国でも珍しいオカルト対策係である。高い倍率を突破して採用された宮澤美郷は、出雲の高名な陰陽師一族の出身というエリートだが、とある事情で実家と絶縁して巴市に就職した。引っ越し早々トラブルに巻き込まれるも、狩野怜路というこの世ならざるものが視える「天狗眼」を持つ男に助けられる。幼い頃に記憶喪失になり、「天狗」を名乗る養父に育てられた過去をもつ怜路と、美貌の貧乏公務員で体内に「白太さん」という白蛇の妖魔が棲みつく美郷。それぞれにワケアリの二人は同居を始め、さまざまな怪異事件を通じて絆を深めていくのであった。 シリーズ最新刊では、全国有数の神楽どころとして知られる広島らしい、神楽をモチーフにしたストーリーが展開。封じられている櫛名田姫の神楽面が消え、鬼女の面に取り憑かれた人々が各地で事件を起こし、美郷と怜路たちは事件解決のために奮闘する。怨みの鬼と化した女の恐ろしい情念や、一般人を巻き込んだ緊迫感あふれるストーリーの中で、ゆるマスコットキャラとして白太さんの存在感が光る。事件がどのような決着を迎えるのか、次巻を楽しみに待ちたい。 ▪️町田そのこ『コンビニ兄弟4 テンダネス門司港こがね村店』（新潮文庫nex） 大人気作家の町田そのこが贈る、コンビニヒューマンドラマの第4弾。 九州のみで展開する地域密着型のコンビニチェーン「テンダネス」。お弁当やスイーツが美味しいと評判の人気コンビニの中でも、名物店舗として知られるのがテンダネス門司港こがね村店である。店には魔性のフェロモンで人々を魅惑する店長・志波三彦を筆頭に、個性あふれる店員や常連客が集っている。 第4巻では、離婚後に門司港へ引っ越してきた百合と、ヒーローになる夢を諦めきれない青年・舞人が登場。支配的な両親のもとで育った百合は、これまでたくさんのものを諦めて生きてきた。両親からの過干渉は結婚後も続き、疲弊した夫から離婚を切り出されてしまう。両親の束縛を断ち切り、自分の人生を取り戻そうとする百合の姿と、テンダネス門司港こがね村店の愉快な常連たちの交流を温かく綴る、再生と希望の物語である。 続く舞人のパートでは、テンダネスが新たに打ち出すオリジナルキャラクター「アル・パカッションくん」が物語の鍵を握る。テンダネスでバイトをする高校時代の友人・高木に声をかけられた舞人は、新キャラの着ぐるみに入る任務につくことに。大人になった今もヒーローに憧れる舞人の不器用なまでの真面目さが愛おしく、かつて彼に救われた高木との友情にも胸が熱くなる。にぎやかで楽しいヒューマンドラマを楽しめる一冊だ。
