老舗猫カフェが“老猫見守り場”に転身 あらためて問うペットの命の重さ
「老猫見守りカフェ」を宣言
そんな谷中の顔でもある「ねんねこ家」が、来年、25周年という節目の年に、幕を下ろすことになった。 久芳さんは語る。 「私も店とともに年を重ね、ここで一緒に暮らし、成長してきた猫たちの多くが年をとってきました」 四半世紀の歴史の中で、「ねんねこ家」にはたくさんの猫たちの姿があった。久芳さんがもともと飼っていた猫もいれば、飼い主さんを亡くした猫を引き取ったり、野良が出入りするうちに久芳さんの飼い猫になったりした。「猫に優しいカフェだから」と思うのか店先に捨てていかれた猫、一時預かりした猫、店で生まれて里親さんを募集した猫……、たくさんの猫たちを迎え、見送ってきた。椿事から楽しいこと、不思議なことまで、「ねんねこ家」には猫たちとの思い出がぎっしり詰まっている。 昨年推定25歳のミクロを、この夏20歳のマサヒロを見送った「ねんねこ家」には現在、21歳のタクヤを筆頭に、18歳のサンキチ、10歳のミチコ、9歳のチョビ、8歳のチヨコ、7歳のシンジロウが暮らしている。
きっかけは、最高齢のタクヤがお客さんの膝の上で粗相をしてしまったことだった。 それ以前から痴呆が始まり、営業中に雄たけびを上げるようになっていたタクヤ。カフェエリアに入れないという選択肢もあったが、タクヤにとってそこも自分の住む家の一部だ。どうしてもカフェエリアに来てしまうし、お気に入りのその空間をタクヤから奪うことは久芳さんにはできなかった。 対策を考えるうちに、粗相事件が起きてしまった。被害に遭ったお客さんは、「ねんねこ家」のことも猫たちのこともよく理解してくれている常連さんだった。快く謝罪を受け入れてくれたものの、店としては、まして飲食店としては決してあってはならないことだ。 久芳さんは決意した。店を閉めることを。ただ、急に方向転換はできないし、終焉に向けての準備を進めることにした。そこでまず、店内やホームページなどに、今後の「ねんねこ家」のあり方を掲示し、理解を求めることにした。閉店までの間、老猫の「見守りカフェ」として運営していく方針を示したのだ。 〈ねんねこ家は二十五周年に当たる二〇一八年で幕を閉じます。(中略)猫達の高齢化、特にタクヤ(二十歳、当時)の痴呆による夜鳴き朝鳴き、失禁が近年激化、お客様にトラブルが発生するようになりました。後一年余りは、通常営業致しますが、ネコカフェ的なご利用目的のお客様には当店は、益々ご満足頂けないと思います。残りの営業は【老猫(病)見守りカフェ】として営業致しますので、ご理解の上のご来店をお願い致します。(後略)〉 強気である。極端な言い方をしてしまえば、理解してもらえないなら来てくれなくてもいいよ、ということだ。実際、こうした状況を説明したところ、入店を諦めた客もあった。 それでもかまわないと、久芳さんはいう。猫たちは客を喜ばせるためにいるのではない。ここが居場所だからいるだけなのだ。ならば、それを理解してくれる人だけに客になってもらいたい。