新型シビック・タイプRが文句のつけようのない“傑作”である理由とは?
“快音”を轟かすエンジン
ただ速いだけでなく上質なクルマであることを確認したところで、「+R」を選ぶ。すると電動パワステの手応えが増し、足まわりもビシッと引き締まって明らかにロール(横傾き)が減る。 スパン、スパンと短いストロークで決まるシフトを操っていると、この2.0リッター直列4気筒ガソリンターボ・エンジンが“ターボはパワフルだけど情緒に欠ける”という常識を覆していることがわかる。 まずレスポンスが抜群で、2000rpmあたりでもアクセルペダルにほんのわずかな力を込めるだけで望んだだけの加速が手に入る。だからワインディングロードが楽しいのはもちろん、青山通りを40km/hで走っても繊細なコントロール性を楽しむことができる。 そして4000rpmを超えると、ターボエンジン特有の前方に吸い込まれるような強烈な加速が味わえる。回転の上昇とともに高まる音も気持ちがいい。その音は、NA(自然吸気)エンジンの「カーン」という乾いたものとは違って、艶っぽい重低音が混じるふくよかな音。これはこれで快音だ。 3本出しエグゾーストパイプは見かけ倒しではなく、左右が通常のエグゾーストパイプで、中央が“サウンド担当”だという。最近のBMWのエンジンは「ターボっていいじゃん」と感じさせてくれたけれど、ホンダのターボエンジンも、まわしたときにドラマを感じることができた。 320psが炸裂してもトルクステアを感じさせないあたりも立派だ。コーナリングは、ぱきっと曲がるライトウェイトスポーツ的なものではなく、もう少し大人っぽい。しっかりと外輪を沈み込ませながら、きれいなコーナリングフォームで曲がっていく。ブレイクダンスではなくワルツの趣だ。 タイプRとワルツを踊りながら、冒頭に記したニュルブルクリンクサーキットを思い出した。ニュルにはパブリックという時間帯があって、チケットを買えばだれでも走ることができる。で、何度か走ったけれど、逆バンクあり、ジャンピングスポットあり、超高速のブラインドコーナーあり、200km/h近くでいきなり路面の荒れているところに出くわすのもあり、など、タイプRくらい懐の深い足まわりでないと、とてもじゃないけどタイムは出ないだろう。 ここで感動するのはステアリング・フィールで、大げさではなくタイヤがどんな感じに変形しているのかがハンドルを通じて手のひらにくっきりと伝わってくる。これならニュルでも自信を持ってハンドル操作ができるはずだ。 マイチェンでこれまで本革巻きだったステアリング・ホイールがアルカンターラに変更されているけれど、こっちのほうが、手触りがエレガントで好みだ。 というわけで、ちょっとアニメっぽいルックスが好みに合わないこと以外は、満点。文句のつけようがない傑作だ。ネオクラッシックブームのせいで20年ぐらい前のシビック・タイプRが高騰していて、それはそれでクルマ文化が育っている証だから悪いことではないけれど、最新のタイプRを新車から育てて、じぶんだけのクラシックにしてみたいと思った。 ホンダは軽自動車やミニバンをばんばん売って、儲けたお金でこういうクルマをつくり続けてほしい。 はたしてこのシビック・タイプR、来年はニュルでFF最速の座を奪い返すことができるのか。ちなみにタイプRの「リミテッド・エディション」はこの夏、鈴鹿サーキットを2分23秒993で駆け抜け、同サーキットにおけるFF最速の座をルノー・メガーヌから奪い返している。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.)