新型シビック・タイプRが文句のつけようのない“傑作”である理由とは?
驚くほど快適な乗り心地
身体をしっかりとホールドする、タイプR専用のシートに腰掛けて、赤いシートベルトを締めると気持ちがグッと引き締まる。背筋が伸びる。 やや重めだけれど、すばらしくスムーズに動くクラッチペダルを踏み込んでスターターボタンを押すと、2.0リッターの直列4気筒ガソリンターボ・エンジンが始動する。2.0リッターで最高出力320psを発生するハイチューンエンジンであるけれど、アイドリングでの音や振動に荒っぽいところは一切ない。 6MTを1速に入れた瞬間に、頭の中にびっくりマークが灯った。引っ掛かりが一切ない滑らかさと、間違いなく1速に入れていると感じられる節度、そしてシフトしていることを実感できる確かな重みが、三位一体となってドライバーの手のひらに伝わってくるのだ。 シフトノブの形状はマイチェン前の球状からティアドロップ型にあらためられていて、こっちのほうが握りやすくて好ましく感じた。ただしシフトのストロークが短いうえにシフトフィールも良好なので、シフトノブを握るというよりは手のひらを添えてシフトするような格好になる。内部に90gの重しを搭載することでバランスを最適化し、シフトフィールの向上を図ったというけれど、確かに手応え抜群の6MTだ。 前述したように滑らかに動くクラッチペダルは、ミートするポイントがわかりやすい。エンジンの低回転域でのトルクが豊かなこともあって、アクセルペダルに触れることなく、アイドル回転で楽々発進できる。はじめてMT車に乗る人や、久しぶりにMTを扱う人も、これなら問題ないはずだ。 びっくりしたのは、乗り心地が想像をはるかに超えて快適だったことだ。といってももちろんふわふわしているわけではなくて、相応に硬い。硬いけれど、バキッと身体を突き刺すような、尖った硬さではなくて、しっかりと角が丸められている。 第1に、ジャンプした人間が着地する時に膝を曲げるように、タイプRのサスペンションもよく動いている。第2に、ボディがいろいろなパーツの寄せ集めではなく削り出しの金属のような一体感があって、路面からの衝撃を車体の一部ではなく全体で受け止めている。硬いけれど気持ちのよい硬さになっているのは、足まわりのセッティングだけでなく、ボディ全体の設計の賜物だと感じさせる。 シビック・タイプRには「+R」「SPORT」「COMFORT」の3つのドライブモードがあり、エンジンを始動したときのデフォルトの状態では「SPORT」にセットされる。ここで「COMFORT」に切り替えると、電子制御式のダンパーは快適な方向にセッティングが変わって、乗り心地はさらに良好になる。これだけ乗り心地がよければ義理の両親や上司など、ちょっと気を使う人でも安心して乗せることができる。 資料によればサスペンションと車体をつなげる球状のパーツ(ボールジョイント)に熱処理を施すことで摩擦を減らし、ダンパーの動きをよくしたとある。シフトノブの90gのウェイトといい、細部に至る配慮がいいモノ感につながっている。“日本のモノづくり”という言葉は大雑把すぎて使う気になれないけれど、“ホンダのクルマづくり“の底力はすばらしい。