平和賞受賞も「核なき世界」へ欠かせぬ現実的議論 安全保障上の脅威、世界で絶えず
被爆者らの証言を通じ「核なき世界」の実現を訴え、10日にノーベル平和賞を授与された日本原水爆被害者団体協議会(被団協)は、国際的な核使用のタブー確立に貢献したことなどが高く評価された。ただ、世界では核保有国のロシアがウクライナを侵略。日本も中国や北朝鮮など周辺国に安全保障上の脅威を持つ。国民の生命を守るためには、核廃絶を求めつつも現実的な議論が欠かせない。 「今こそ核兵器とは何か再認識する意義がある。世界がこれまでに持ち得た最も破壊的な兵器だということを」。10月11日、被団協の受賞を発表したフリードネス・ノーベル賞委員長は授賞理由の説明で、世界における核の脅威に触れた。背景には、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵略に際し、核兵器使用を示唆して威嚇したことなどがある。 唯一の戦争被爆国である日本。政府は「核兵器のない世界の実現に向け国際社会の取組をリードしていく責務がある」(外務省ホームページ)と発信する一方、核兵器禁止条約は批准していない。米国が核を含む戦力で日本の防衛に関与する「拡大抑止」を重視しているからだ。石破茂首相も10月12日に与野党7党首が臨んだ日本記者クラブ主催の討論会で「現実として核の抑止力は機能している。どう核廃絶へつないでいくかはこれから議論していきたい」との考えを示した。 これに対し、首相と受賞決定後に電話で対談した被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員(92)は「ぜひ(首相と)会って議論し、考え方が間違っていると説得したい」と語る。箕牧(みまき)智之代表委員(82)も「核がある以上いつかどこかで事故が起こる。絶対にゼロにしてほしい」と、被爆国だからこそ核に頼らない国づくりを訴える。 ただ、ロシアによるウクライナ侵略以降、日本国内でも核抑止力の強化を巡り、さまざまな議論が展開されている。今年2月、参院の外交・安全保障に関する調査会では、参考人として出席した一橋大の秋山信将(のぶまさ)教授が「核に関する議論というのは、短期的、長期的なリスクいずれも考える必要がある」と指摘。国民の核への理解を深める必要性に触れた上で「印象論で語ってはいけない」と語った。 被爆地・広島が地元の岸田文雄前首相は首相在任中の令和4年3月、参院予算委員会で核共有を含む核抑止力の強化について「政府として議論することは考えていない」と答えた。一方で、一般論として国の安全保障のあり方は「時代状況、国際状況を踏まえたさまざまな国民的議論が行われるべき」だとも述べた。
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