【周回遅れの日本の盗聴捜査】米国で起きた“重大事件”、闇バイト対策で税金の無駄遣いはするな
通常の暗号化とは本質的に異なるレベルのプライバシーとセキュリティを提供する暗号化のゴールドスタンダード(評価の精度が高いとして広く容認されて手法)として、全てのメッセージングサービスで採用される可能性がある。
米国では合法な通信傍受
筆者は過去にIP電話の盗聴装置の仕様を書いた経験があるが、IP電話のログから特定の通信を抜き出すというもので、決してリアルタイムで通信傍受を可能とするものではなかったし、暗号通信には歯が立たないものであった。リアルタイムの通信傍受を可能にするには、日本でも米国が施行しているような通信法執行支援法(CALEA)が必要だ。 CALEAは、ビル・クリントン大統領時代の1994年に可決された盗聴法で、通信事業者と通信機器メーカーに、機器、設備、サービスに対して標的監視の機能を備えることを義務づけた法律である。連邦政府機関があらゆる電話トラフィックを選択的に盗聴できるようにすることで、法執行機関が合法的に通信傍受を可能とするものだ。 2005年には、CALEAの対象範囲をブロードバンド・インターネットアクセス・サービスプロバイダー(ISP)および相互接続されたVoice over Internet Protocol(VoIP)サービス(IP電話)のプロバイダーにまで拡大している。 今、米国ではこの捜査機関がいつでも簡単にリアルタイムで通信傍受ができるバックドア(隠れたアクセス経路)が問題になっている。
中国のハッキング集団ソルトタイフーンの脅威
米国は、中国系ハッカー集団「ソルト・タイフーン(Salt Typhoon)」による「米史上最悪の規模」とまでいわれる盗聴が行われていたことにショックを受けている。連邦捜査局(FBI)によると「ソルト・タイフーン」は、1年以上も前からベライゾン、AT&T、ルーメンス・テクノロジーなどの大手インターネット・サービスプロバイダー(ISP)のネットワークに侵入していたとみられ、音声通話をリアルタイムで盗聴するなど、数百万人分の電話やテキストメッセージが漏えいしたとされている。ドナルド・トランプ次期大統領やJ・D・バンス次期副大統領の携帯電話も標的となっていたようだ。 「ソルト・タイフーン」は中国政府の支援を受けたグループとみられており、19年頃から活動しているとされ、ブラジルやカナダ、イスラエル、サウジアラビア、英国、台湾などの政府機関や電気通信事業者を標的としていた。 「ソルト・タイフーン」のハッキング手口は、通信機器の脆弱性やランサムウェアなどコンピュータウイルスを使用した従来の手法によって行われるが、今回の手口は、通信事業者がCALEAに従って用意されたバックドアからの侵入であった点が問題になっているのだ。捜査当局が通信傍受に使用するバックドアから侵入され、盗聴されていたことは、今後の通信傍受のあり方に疑問を投げかけた。