利益、政治、歴史の消去…トルコ文化財保護の障壁
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【12月27日 AFP】ずさんな修復作業や、破損したり形がゆがんでしまったりした歴史的建造物──トルコの専門家らは、利益争いや政治的な思惑、身内びいきなどによって、繊細さが要求される文化遺産の維持がなおざりにされていると指摘している。 14世紀に建てられたイスタンブールのランドマーク、ガラタタワー(Galata Tower)も今年8月、新たに論争の的となった。修復作業員が削岩機を用いる動画がSNSに流出し、住民から批判の声が上がったためだ。削岩機で壁を取り壊す作業はかろうじて中止された。 ヌーリ・エルソイ(Nuri Ersoy)文化観光相は、壊されたのは後世の復元部分だと釈明し、削岩機の使用については現場監督に「制裁」を科すとして事態の収拾を図った。 だが、ローマ時代のモザイク画にはじまり、古代円形劇場の真ん中に積み上げられたコンクリート、見る影もないモスク(イスラム礼拝所)や城塞(じょうさい)まで、トルコでは近年、文化財修復の失敗例が続々と増えている。 歴史的な建造物がひどい扱いをされることは、トルコでは常であり、特にイスラム文化以外の痕跡はもみ消されてきた、と話すのはトルコ文化の多様性を紹介するギャラリー「ビルザマンラル(Birzamanlar)」の創設者オスマン・コケル(Osman Koker)氏だ。 それでも、レジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)現大統領が最初に首相に就任した2000年代初頭は、状況はまだましだったという。「当時は欧州連合(EU)加盟を目指す布石の一つとして、象徴的価値の高い建物の修復は優先事項でした」とコケル氏は語る。 2011年には、トルコ東部のバン湖(Lake Van)に浮かぶアクダマル(Akdamar)島にある10世紀のアルメニア教会の修復が大成功し、称賛を集めた。 ■利益最優先 だが、文化財保存を専門とする建築家のコルハン・グムス(Korhan Gumus)氏は、近年のEUからの疎外と、エルドアン氏の政策の強硬路線への転換が状況を一変させたと語る。 グムス氏は「修復事業の入札は優遇された企業間で行われ、独占状態です。そして事業の目的は、何よりも利益が最優先されます」と嘆く。 同氏によると、それぞれの文化財が持つ歴史が事前に熟考されることはない。何百年も何千年にもわたって「異なる文明によって付け加えられてきた部分」を保存するのではなく、建造時の「原形の再現ばかりが叫ばれ、悲惨な結果を生んでいます」という。 米ピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)の研究者、トゥグバ・タニエリ・エルデミル(Tugba Tanyeri Erdemir)氏は、トルコ政府は文化遺産を保護するよりも支配したがっていると指摘。今年決定されたアヤソフィア(Hagia Sophia)のモスク化を例に挙げた。 国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界遺産(World Heritage)であるアヤソフィアは今から約1500年前、キリスト教国家のビザンツ(Byzantine)帝国時代に大聖堂として建造された。1453年にオスマン(Ottoman)帝国が首都コンスタンティノープル(Constantinople、現イスタンブール)を征服した後、モスクに改造され、1935年からは博物館として公開されていた。だがエルドアン大統領は今年7月、アヤソフィアを再びモスクとすることを決定した。 市当局の文化遺産担当責任者マヒル・ポラット(Mahir Polat)氏は、文化財の消失とともにイスタンブールの記憶が消えゆくことを懸念する。 「都市の記憶は、その生活空間と密接に関わっています。私たちは歴史ある建物と共生し損ねたのです」とポラット氏は嘆く。「自分たちが手にしている宝物に気付けることを願っています」 映像は9月24日、10月16日撮影。 (c)AFPBB News