「お金のため」復帰した新谷仁美 一度引退した“駅伝の怪物”の覚悟と進化の理由とは?
横田コーチと一緒でなければ、“進化”はできなかった
そこからは、新谷の本当の復活劇が始まる。 2019年末には「NIKE TOKYO TC」が成績不振を理由に解散。新谷は積水化学工業に所属しながら、横田コーチの中距離専門チーム「TWOLAPS TRACK CLUB」に拠点を残し、トレーニングを続けた。 1月19日にはアメリカ・ヒューストンでのハーフマラソンで、1時間6分38秒の日本新記録を樹立。コロナ禍を挟み、9月20日の全日本実業団陸上5000mで14分台を出し、日本女子歴代2位の記録をマーク。10月のプリンセス駅伝では8年ぶりの実業団駅伝で区間記録を更新と、圧倒的な走りを見せた。 11月22日のクイーンズ駅伝、12月4日の日本選手権(日本陸上競技選手権大会)長距離種目でもおそらく、周囲を驚かせる記録を出すだろう。横田コーチも、その結果に対するこだわり、選手が持つマインドを最大限に尊重している。 「逆に僕は、過去がどうとか昔に戻すとかより、今の彼女を強くすることしか考えなかった。新谷自身を復活させたのは彼女自身。そこから一緒に成長していったのは共同作業。僕ももちろんやりましたけど、新谷自身がやりきったのが最も重要で、そのプロ意識の高さは僕も本当に尊敬しています」 新谷自身もまた、この出会いこそが、自分をさらに強くした要因だと話す。 「横田さんと今になって出会えたのは、大きいですね。振り返って思うのは、横田さんのところじゃなければ、元には戻せたけど“進化”はできなかった。自己ベストは出なかっただろうし、わかりやすくタイムなら5000mで15分10前後止まりだったと思う。25歳前後の身体がピークと勝手に決めつけられたのを、変えることができたのも、横田さんのところだったから。他の環境でやっていたら、“成長”や“進化”はなかったと思います」 「最初は極端な話、周り全部が敵と思っていた人間だったんです。それが復帰して、大人の事情でくっつけられた関係だったとしても、横田さんの価値観が、方法は全然違うけど、見るところが同じだと思った。何より強みだったのが、横田さん自身が選手として、世界陸上やオリンピックのスタートラインに立っていること。その場に立ったこともないのに、偉そうにわかったように言うだけの指導者は、日本中にたくさんいる。あの緊張感や景色、さまざまな思いは、本当に走った人しかわからない。だからこそ、中途半端な発言をしないのが、私にとって一番信用できるポイントでした」