『FANTASIAN Neo Dimension』坂口博信氏&吉田直樹氏インタビュー。『ファンタジアン』がスクウェア・エニックスで発売されるのは“同窓会で帰って来たような気持ち”
坂口博信氏率いるミストウォーカーが開発を手掛け、植松伸夫氏が音楽を担当したRPG『ファンタジアン』。2021年にApple Arcadeで配信され、手作りのジオラマとCGが融合したグラフィックなどが話題になった本作だが、それに追加要素を加えた新作『FANTASIAN Neo Dimension』(ファンタジアン ネオ ディメンジョン)が、2024年冬にスクウェア・エニックスから発売となる。 【記事の画像(13枚)を見る】 対応機種はNintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、PC(Steam)。そして本作においてミストウォーカーとともに開発を手掛けるのは、スクウェア・エニックスで『ファイナルファンタジーXIV』や『ファイナルファンタジーXVI』などを世に送り出しているクリエイティブスタジオ3だ。 坂口氏といえばかつてスクウェア(当時)に在籍し、『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親と言える人物。その坂口氏の作品がスクウェア・エニックスから発売となるのは、まさに20年以上ぶりのこととなる。そこで今回は坂口氏だけでなくクリエイティブスタジオ3のスタジオヘッドである吉田直樹氏にも同席いただき、『FANTASIAN Neo Dimension』が制作されるに至った経緯、そして本作の見どころについておふたりにうかがった。 ※聞き手:ファミ通グループ代表 林克彦 ※インタビューは2024年7月5日に実施されたものです。 坂口博信(さかぐちひろのぶ): ミストウォーカーCEO。『ファイナルファンタジー』シリーズの産みの親。ほかにも『ブルードラゴン』『ロストオデッセイ』『ラストストーリー』『テラバトル』など多数の作品を手掛ける。2021年4月、8月にかけてオリジナル版『FANTASIAN』をApple Arcadeにてリリース(文中は坂口)。 吉田直樹(よしだなおき): スクウェア・エニックス 取締役/執行役員 クリエイティブスタジオ3 スタジオヘッド。2010年12月に『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任。現在、『ファイナルファンタジーXVI』のプロデューサーも兼任している(文中は吉田)。 スクウェア・エニックスから発売されるのは“同窓会で田舎に帰って来たような気持ち” ――まず本題に入る前に、坂口さんと言えば『ファイナルファンタジーXIV』(以下、FFXIV)の熱心なプレイヤーでもありますが、最新拡張パッケージの『FFXIV: 黄金のレガシー』はいかがでしたか? 坂口: メインクエストは終わったので、現在はいろいろと新しいコンテンツにチャレンジしている最中です。とくに今回は、ゲーム全体にグラフィックスアップデートが入ったことがすごかったですね。新しいエリアだけでなく、従来のエリアもキャラクターも、全部ブラッシュアップされていて。そんなグラフィックをプレイヤーとして堪能する一方で、作り手側の目線では「これはたいへんな作業だぞ……」とヤバさも感じていました(笑)。 吉田: ありがとうございます! 拡張パッケージは毎回そうなのですが、拡張パッケージそのものの実際の開発期間は1年半もないため、現行のアップデートと並行して制作しなくてはならず、さらに今回はグラフィックスアップデートもあるため本当にたいへんでした。細かいミスも多く、プレイヤーの皆さんにはご迷惑をおかけしましたが、アーリーアクセスが終わったときは、全スタッフを集めて「ありがとう!」と感謝の言葉を伝えました。 坂口: ストーリーの感想についてはネタバレになるので詳しくは言いませんが、昔の『FF』シリーズをオマージュしたような要素があり、しかもとてもいい形で使われていたので、ニヤリとしながら遊ばせていただきました。インスタンスダンジョンなどのコンテンツも適度な歯応えがあり、とても楽しかったですね。 吉田: コンテンツの難度は「カジュアル層には難しいのでは?」といった意見もありましたが、その声も落ち着いてきました。その一方で国内外から「これくらいが楽しい」といった意見もたくさんいただいているので、しばらくはこの方向で続けていきたいと考えています。 ――では、本題である『FANTASIAN Neo Dimension』についてお聞きします。まずは今回初めて『FANTASIAN』に触れる方へ向けて、坂口さんがオリジナル版となる『FANTASIAN』をどのような経緯で作られたのか、改めて教えてください。 坂口: もともとApple社に知り合いがおり、その方から「Apple Arcadeを立ち上げるにあたって、ぜひ新しいゲームを作ってほしい」とお願いされたことが制作のきっかけでした。さらにApple Arcadeとしてたくさんのゲームジャンルを欲している中で、日本ならではの特色を出したいということでしたので、いわゆる“JRPG”と呼ばれる、昔ながらの日本らしいRPGがいいのではないかと思い、『FANTASIAN』が生まれたわけです。 ――そして今回、スクウェア・エニックスから『FANTASIAN Neo Dimension』となって発売されることとなり、しかも吉田さんが関わられている。これは、『FF』ファンとしてもすごくうれしいことなのですが、どのような経緯で実現に至ったのでしょうか?: 吉田: 発端と言えるのは、2021年の東京ゲームショウの対談企画です。最初にお会いしたという意味では、『FFXIV: 新生エオルゼア』の発売直前に一度ご挨拶を兼ねてお食事をさせていただきましたが、そこから8年くらいなかなかお会いする機会がなくて……。そんな中、ファミ通さんの企画により東京ゲームショウの番組で坂口さんと対談する機会をいただきました。ただ正直に言うと、その時点では“怖さ半分”な思いもありました。 坂口: えー? 怖いという意味では、吉Pは初めて会ったときから“ジャラジャラ”していたから、こっちのほうが「怖っ!」って思ったよ(笑)。 吉田: あはは、それは見た目ですよね(笑)。そのときの自分の怖さというのは、“僕という人間を坂口さんがどう捉えているのか、それがわからない状態で対談に挑まなくてはいけない怖さ”だったんです。ですがそれに対して、坂口さんは対談に先駆けて『FFXIV』を遊んでくださいました。「吉田と対談するならば『FFXIV』を遊ばないと!」と思ってもらえたのが本当にうれしくて。さらに対談後も『FFXIV』をプレイし続けてハマっていただいて……。 坂口: 僕は過去作を手掛けてきたこともあり『FF』シリーズが大好きなのですが、『FFXIV』にはあらゆる『FF』の要素が内包されているんです。歩くだけで『FF』シリーズに触れている感じがして、プレイ中は何十分も立ち止まっては写真を撮りまくったりしています。そうやってプレイすると、『FFXIV』がいままでの『FF』シリーズの要素を丁寧に扱ってくださっていることがわかりますし、しかも使いかたが非常にニクい感じで。ですから、対談のとき以上に『FFXIV』を通して、より“吉田直樹とはどんな人間なのか”を強く感じることができました。 吉田: “ゲームを通して、吉田がどんな人間なのかが伝わった”と坂口さんからうかがうことができたのはうれしかったですし、『FFXIV』を作ってきて本当によかったと感じました。そして、その対談をきっかけに坂口さんと仲よくさせていただくようになったのですが、あるときに「『FANTASIAN』のコンシューマー版の展開を考えている」とお聞きしたのが、今回の企画の発端になります。 ――その話を受けて、吉田さんはどのように企画を立ち上げていったのでしょうか? 吉田: 僕はチームをたくさん率いていて、その責任者でもあるため、自分の交友関係や好みだけでプロジェクトの可否を判断はできません。しっかりとビジネスとして成り立たせつつ、さらにチームのみんなや会社が「坂口さんをバックアップしよう」、「『FANTASIAN』をより多くの人に遊んでもらおう」と思わないと、企画として成立しないと考えました。 まずは上の許可を得なければプロジェクトは進まないので、当時の社長(松田洋祐氏)に「坂口さんからこんなありがたいお話がありました。やってもいいですよね!?」とアタックをかけて(笑)。社長からは「坂口さんからそう言っていただけるのはありがたい。前向きに検討してほしい」という返答をもらいました。ただ、チームが納得しなければ手掛けることはできないため、実際にみんなで『FANTASIAN』をプレイして検討を重ね、企画を進めていきました。 ――そのときにプレイした感触はいかがでしたか? 吉田: シンプルにゲームとしておもしろく、「このゲームをもっとたくさんの人に遊んでもらいたい」と感じました。その一方で、プラットフォームがApple Arcadeのみでしたから、“タイトルの存在を知らない人”や“タイトルの存在は知っていても遊んだことがない人”が多いこともわかりました。そういったことを確認しつつ、かなり時間をかけて企画を進めさせていただいたので、坂口さんにとっては「かなり慎重に検討しているな」と思われたのではないでしょうか。 坂口: たしかに、最初に相談したときからかなり時間がかかりましたが、そうなることは初めから理解していました。スクウェア・エニックスは大きな会社ですから、そう簡単にプロジェクトを立ち上げることは難しいでしょう。それでもスタッフたちがしっかりプレイして検討を重ねてくださったのは、すごくありがたかったです。 ――吉田さんやチームの皆さんが、『FANTASIAN』においてとくに魅力として感じたポイントはなんですか? 吉田: 僕もスタッフも気に入っているのが“王道感”です。ファンタジー作品はいろいろな描きかたができるジャンルですが、『FANTASIAN』は本当にまっすぐ王道のファンタジーを描いています。たとえば、グロテスクな表現に頼ったほうがスムーズだろうと思われる部分でも、そういった表現に頼らず、シンプルかつストレートに世界や物語を描かれているという印象でした。 そしてそれだけではなく、“ジオラマで作られた世界”が構築されていることが魅力的でした。ジオラマのよさは、3DCGでは絶対に作り出せない空気感と雰囲気を持っていることです。これらの魅力をしっかりと伝えることができれば、ゲーム的な価値もすごく高くなるだろうと考えました。 あとスタッフは「後半の難度の高さがヤバい!」とも言っていましたね(笑)。そこも『FANTASIAN』の魅力のひとつではあったのですが、かなり難しいのでコンシューマー版にあたって調整が必要だろうと話して、坂口さんにも相談しました。 『FANTASIAN』の背景は手作りのジオラマをベースに制作されている。 坂口: 自分でも「終盤の難度はピーキーすぎる」と、わかってはいたんですけどね(苦笑)。そこは反省していて、「機会があれば手を加えないといけないな」と思っていました。ですので『Neo Dimension』では新たに難易度設定ができる形になっています。 ――ちなみに坂口さんが作られたゲームのコンシューマー版を担当すると決まったとき、スクウェア・エニックス側のチーム内の反応はいかがでしたか? 吉田: これまで真摯に『FFXIV』などの開発に取り組んできたからこそ、坂口さんからお声掛けをいただけたと自負しており、皆とても光栄に思っていました。また、坂口さんといっしょにお仕事ができることは今回の企画だけに留まらないと思っていて、その点もうれしく感じていました。 坂口: 正直、僕のほうから直接スクウェア・エニックスさんの門を叩くことは難しかったと思います。“吉Pがいたからこそ相談することができた”という点は大きいです。 吉田: 僕は坂口さんが旧スクウェアに在籍されていた際には、まだ入社していなかったからこそ、「坂口さんといっしょに何かできるなら、やりましょうよ!」と気軽に提案できたのかもしれません。忖度などもとくにないので……。ちなみに、『Neo Dimension』の企画が実現したことについては、北瀬さん(北瀬佳範氏。『FF』シリーズブランドマネージャー)も「本当によかったね」と喜んでいました。 ――スクウェア・エニックスからリリースされるゲームに坂口さんが関わるのは、約20年ぶりかと思います。坂口さんはどのようなお気持ちでしょうか。 坂口: 特別な感情はとくになかったのですが、発表したときにX(旧Twitter)の『FF』公式アカウントが「坂口さんお久しぶりクポ~!」と投稿したんですよね。これにはどう返答したらいいのか、まったくわからなくてドキドキしてしまいました(笑)。旧スクウェアで僕は育ったわけですから、わかりやすく言うと“中学か高校の同窓会で田舎に帰って来たような気持ち”に近いです。 ――今回の『Neo Dimension』はパッケージ版も発売されます。これもまた坂口さんにとって久しぶりのことですが、パッケージ版が発売されることについてお気持ちはいかがでしょう? 坂口: 不思議な感動ですね。やはり物理的な存在として手に取れるというのは特別な気持ちになります。かなりひさしぶりですから、「これは大量購入してサインして配りまくるしかない!」と思っています。なにがしかで繋がりのある方は、どしどし応募願います(笑)。 吉田氏の強い要望により実現したボイス対応 ――ここからは『Neo Dimension』ならではの部分についてお話をうかがっていきます。本作では機種によっては4K解像度に対応しており、より鮮明なグラフィックでジオラマの背景を楽しめるのが大きな魅力ですよね。 坂口: はい。Apple ArcadeはiPhoneシリーズのみならず、Mac OSのPCでも遊べますが、やはりPCで遊ぶ人はかなり少なめで、スマートフォンサイズの小さな画面で遊んでいた人が多かったのです。今回は4K解像度に対応しているので、大画面で楽しんでもらえるようになったのはうれしいですね。 吉田: 本作を発表したとたん、世界中から「待ってました!」という声がたくさん挙がったのも、そういった環境でプレイできることが一因かもしれませんね。 坂口: 僕としては「待たずとも、いますぐ遊べるよ?」という想いもありますけどね(笑)。ただ、そうやって待っていてくださった方々がいたからこそ『Neo Dimension』が生まれたとも言えます。 吉田: オリジナル版をクリアーした人たちからも「いいゲームだけれども、ゲーム自体が特殊な配信方法ゆえにオススメしにくい」といった声はありました。ですから本作でより多くの人たちに触れてもらえるようになったことは、『FANTASIAN』ファンとしてもうれしいことだと思うのです。 ――先ほどの4K対応も含めて『Neo Dimension』にはいくつかの追加要素がありますが、これらはどのように決められたのでしょうか? 吉田: こちら側からお願いしたことはいくつかあるのですが、その中でもボイス対応はいちばん大きな追加要素です。ボイスがあることで、オリジナル版を遊んだことがある人も、遊んだことがない人も、より本作の世界に飛び込みやすくなっていると思います。 現世代のプレイヤーたちはフルボイスのゲームに慣れていて、“物語は読むものではなく観るもの”といった感覚が強いと思うのです。よってボイスがあったほうが、より「ラストシーンまで辿り着きたい」と思ってもらえると考えました。ここは、坂口さんに強く提案させていただいた点になります。 坂口: 僕は自分のゲームにボイスを採用しないことが多いのですが、今回はそのように強い要望もあって対応することにしました。 ――実際にボイスが付いた『Neo Dimension』を見て、どのように思われましたか? 坂口: いやもう、プレイしながらずっと「いいじゃんこれ!」と思っていました(笑)。強く提案してくれたのも、『FANTASIAN』の魅力をより多くの人に伝えたいと考えてのことだと、改めて理解しました。ですから吉Pが強く要望してくれたことに感謝したいですね。通常のテンションで提案されていたら、おそらく僕はボイス対応を断っていたと思います。 吉田: ありがとうございます。提案させていただいたとき、坂口さんから「いったん考えさせてほしい」と返答をいただいたので、ボイスに関して強いこだわりがあることは理解しましたが、それでも導入すべきだと考えました。坂口さんが苦手とする部分はこちら側で引き受ければいい話ですし、そのために我々がいるわけですから。 なお、基本的なセリフのボイスはすべて収録していますが、街の人たちとの会話といった一部のセリフにはボイスが適用されていません。理由は、ゲームのテンポが悪くなるからです。 街の人に話しかけたときにボイスがあると、会話を聞き終わるまで待つ人が出てしまう。そのため、ストーリーの根幹に関わらないような会話は流して読めるようにしたいというのは、自分も坂口さんもお互い同じ意見でした。ただ、具体的にどこをボイスにするかしないかは、かなり議論を重ねています。 また、そもそもオリジナル版のカットシーンはボイスを入れる前提で作られていなかったので、作りかたを少し変える必要があり、その点もかなり細かく調整を施していただきました。 ――レオア役の内田雄馬さんを筆頭に、ボイスのキャスティングはどのような形で決めていったのでしょうか?: 坂口: そこはスクウェア・エニックスさんに全部おまかせしました。 吉田: スタッフたちが『FANTASIAN』をすべてプレイしたうえで、できるだけ最高のキャストを揃えようと考えました。そのうえで、『FFXIV』や『FFXVI』などで長年培ってきた声優さんたちとのつながりも活用しつつ、キャスティングを進めていきました。 ちなみにレオアを演じている内田雄馬さんは、じつは『FF』シリーズの主人公になりたくて声優を始めたそうなんです。ですから『FFXIV』のグ・ラハ役や、『FFXVI』で少年期のクライヴ役をお願いしたときもすごく喜んでいましたが、今回は『FF』の生みの親である坂口さんが手掛けたタイトルの主人公を演じるということで、とても感慨深かったのではないでしょうか。 内田雄馬さんが演じる主人公・レオア。 坂口: 僕はボイスのノウハウがないのでうまくは言えないのですが、内田さんはすごく上手にレオアを演じてくださっています。声の収録にも立ち会いましたが、速攻で記念写真を撮りました(笑)。 吉田: 内田さん、ガチガチに緊張していませんでしたか?(笑) 坂口: していたと思います。こっちまで緊張しちゃったくらい(笑)。 ――追加要素にはボイスのほかに難易度の緩和もありますが、こちらの意図も改めてお聞かせください。 坂口: 先ほどの話にあったように、オリジナル版では、「後半がキツすぎる」といった声を多くいただいていました。もともとの後半のバトルは、バトルプランナーではなくプログラマーが直接作ったものだったんです。ですからプログラミングのように理詰めで戦略を構築できる人ならば楽しめるのですが、それが苦手だとどんどん難しくなっていく。 もちろん、だからこそ戦略を立てるおもしろさがあるのですが、改めて見直してみたらちょっとやりすぎた部分があったと感じました。そのためバランスを見直した新たな難易度を選択できるようにしています。 吉田: これについては坂口さんから「難易度選択を付けるのはどうだろう」と提案していただいた形になります。 坂口: 実際の難易度調整についても、我々ミストウォーカーのほうで担当しました。おもに後半のボス戦全般を中心に調整を施しています。もちろんオリジナル版も、難しいとはいえしっかりクリアーできるゲームですので、そちらは難度“ハード”として残しています。 吉田: 我々としては、全体の難度を低くする方向も当初考えていましたが、坂口さんのこだわりで難易度を選択できるようにしました 坂口: ちなみに「プログラマーのナリケン(成田賢氏。ミストウォーカー所属。数々の『FF』シリーズでメインプログラムを担当)がクリアーできたら、ちょうどいいバランスなはず!」ということで、いまは彼にテストプレイをしてもらっています。彼はすごいプログラマーなのに、ゲームには慣れていなくて、実際にプレイするとなったら「え、属性って何?」みたいになる人なんです(笑)。ゆっくりと進めているようですが、いまのところすごく楽しんでもらっています。 ――ナリケンさんのお墨付きというわけですね(笑)。言語は日本語と英語の両方が収録されているのですか?: 坂口: はい、ボイスも日本語と英語が選べます。英語のボイスにして日本語の字幕つきで遊ぶのも、洋画を観ているようで楽しいですね。 ――『Neo Dimension』の対応ハードはNintendo Switch、PS4、PS5、Xbox Series X|S、Steamと幅広いですが、これはどのような経緯で決まったのでしょうか。 吉田: これは我々のチームの方針でもあるのですが、せっかく心血を注いで作ったゲームなのですから、ひとりでも多くのプレイヤーに遊んでもらいたいという想いがあります。今回もプラットフォームの縛りがない中で、どこに届ければより多くの方に手に取ってもらえるかを考えたとき、“考え得るすべてのハードで発売する”という結論にたどり着きました。 坂口: 最初は「こんなに出して大丈夫だろうか……」と正直とまどいましたが、ディレクターの中村拓人(ミストウォーカー所属。オリジナル版ではディレクターとプログラムリーダーを担当)が「やりたいです」と引き受けてくれたので、実現できました。 吉田: 中村さんは本当にすごい方で、本来はボイスが入るとなると、いろいろと変更しないといけない部分も出てくるのですが、それらに対してものすごいスピードと安定性で対応していただきました。 さらに最近のゲームはPCで開発するのが基本とはいえ、プラットフォームごとにクセが必ずあって、個別に対応しなければならない部分が発生するのです。それに対して、なるべく開発しやすいように各プラットフォーマーと相談して開発環境を整えていくのですが、その過程でどうしてもスケジュールが遅れがちになってしまいます。しかし今回は中村さんのおかげで、まったく遅れることはありませんでした。 正直、「スクウェア・エニックス社内でも、このレベルの方はなかなかいないのでは……?」と、愕然としたくらい影響を受けています。 坂口: いやいや、『FFXIV』のプログラマーも優秀でしょう。あのバグの少なさは驚異ですよ。超巨大な世界で、ゲームの規模も『FANTASIAN』よりはるかに大きいのに。もちろん、運営やゲームバランスの調整など、そのほかの苦労も多いと思いますが。 吉田: とはいえ、大規模開発となるとエンジニアも細分化してしまいますが、中村さんのようにあれだけひとりで何でもできて、しかもレベルが高い存在は、本当に稀有だと思います。ゼネラリストは珍しくなってきましたし、我々のエンジニアもそうなってほしいとは思いますが、正直難しいレベルのすさまじさです。ただ、目標のひとつにはしてほしいですし、本作の開発に関わってないスタッフにも、このゲームがどれだけの速度で作られたのかは語っていきたいですね。 ――ちなみに、オリジナル版でBGMを手掛けた植松伸夫さんは、今回の『Neo Dimension』についてどう語られていましたか? 坂口: スクウェア・エニックスさんから発売されることに、いちばん驚いていましたね。「え、スクエニと!? へぇー、帰ってくるんだー」って、あの感じで言っていました(笑)。 オリジナル版にあたって植松さんは、完全に作曲だけに専念できるスタジオ環境を整えて、ひたすらに約60曲もの楽曲を作ってくれました。本当に名曲ばかりです。そんな楽曲たちを、ふたたび『Neo Dimension』で皆さんに聴いてもらえると思うと、僕としてもすごくうれしいです。 坂口氏と吉田氏、ともに新たな作品を準備中! ――現在、『FANTASIAN Neo Dimension』のリリースは2024年冬と発表されていますが、正式な発売日の発表がとても楽しみです。そんな中で気が早いですが、『Neo Dimension』の発売後も、坂口さんと吉田さん、またはミストウォーカーとスクウェア・エニックスが組んで、何か新しいものが生まれたりする可能性はありそうでしょうか? 吉田: 僕としては、坂口さんにやりたいことがあり、もしそこから盛り上がるのであれば、ぜひまたごいっしょしたいと思っています。 坂口: やりたいことといえば、以前、僕が強く要望した結果『FFXIV』にカッパのコスチュームが実装されたのがうれしかったですね(※)。ですからいまは、いっしょにやりたいことよりも『FFXIV』への要望のほうが先に思い浮かんでしまう(笑)。 ※坂口氏が対談などで要望した結果、『FFXIV』で2024年5月に開催されたシーズナルイベント“ゴールドソーサー・フェスティバル”にて、カッパの着ぐるみが手に入るイベントが実施された。2024年1月に東京ドームで開催されたファンフェスティバルでは、坂口氏がカッパの着ぐるみを着てステージに登壇したことも話題に。 吉田: 東京ドームのイベントで、カッパで歓声を巻き起こすことになるとは思ってもいませんでした(笑)。なおコスチュームについては、「『FFXIV』に『FANTASIAN』のコラボコスチュームを出してほしい」といった声も届いています。ほかにも、ぼく個人的な要望としては、シーズナルイベントなどで坂口さんにクエストに作ってもらえたらいいな、といったことも考えてしまうのですが……。 坂口: 『FFXIV』が“仕事”になっちゃうのは純粋にイヤだから難しいかも……(苦笑)。 吉田: 作り手側になるとゲームの見えかたが変わってしまいますからね(笑)。 ――吉田さんが代表を務めるクリエイティブスタジオ3からは、今年『FFXIV: 黄金のレガシー』やPC版『FFXVI』、そして『Neo Dimension』が発売されることになりますが、そのほかも含め、今後のどのようなことに挑戦していきたいかお聞かせください。 吉田: 部署名こそ何度も名称の変更を経ていますが、チームの方向性や体制は何ひとつ変わりありません。少なくとも“自分たちがおもしろい”と思ったゲームをお届けし、1円でもいいから黒字にして、それをもとにさらに多くのプレイヤーに我々のゲームを届けること。これはいまも変わらずに持っている我々のポリシーです。 現在は『FFXVI』のPC版の発売を目指して最適化の追い込みをしており、まもなくお届けできるかと思います(※)。そして、『FANTASIAN Neo Dimension』を多くのプレイヤーに遊んでいただくために、努力を続けています。ゲームはすでにおもしろくて最高の作品であることは確定していますので、しっかりそれを各プラットフォームでお届けさせていただきます。 そして規模は大きくはありませんが、未発表のプロジェクトも進捗中です。スクウェア・エニックスはいま、変わらなくてはいけない時期です。主力である『FFXIV』をメインに守りに入るのかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、クリエイティブスタジオ3は、今後も挑戦を続けていきたいと思っています。 ※インタビュー後、PC版『FFXVI』の発売日が2024年9月18日であることが発表された。 坂口: 先日どこかのインタビューで「いま、タイトルがふたつ動いている」といったことを言っていたよね? 吉田: そのひとつが『FANTASIAN Neo Dimension』です。 坂口: なるほど! つまり、もう1タイトルあると!? 吉田: はい、それが未発表のものですね(笑)。 ――ぜひ続報をお待ちしています! 一方、坂口さんは『FANTASIAN』をリリースされるときに、「これは自分の引退作になるかも」とおっしゃっていましたが、X(旧Twitter)を拝見していると、すでに新作が動き出しているようですね。 坂口: 『FANTASIAN』は本当に引退作になるかもと思いながら作ったのですが、そうですね、撤回です(笑)。新しい作品の話は進み始めていて……つまり、新作を作っているということです。 ほぼ『FANTASIAN』と同じチームが手掛けることになるのですが、まだ何を作っているのかは明かせません。ひとつ言えるのは、やっぱりゲーム制作は楽しいですね。こうなるともう、仕事というよりは楽しみのひとつなのかもしれません。 僕が年齢を重ねたこともあるかもしれませんが、「仲間ってほんとにいいな」としみじみ思います。またみんなと開発できるんだと、ワクワクしています。ちなみにプライベートな話題ですが、もうすぐ孫が生まれるんですよ。そのときに感じたことも、新しいゲームに盛り込めたらいいなと思っています。 ――おめでとうございます! どのような形で新作に反映されるのか楽しみですね。それでは最後に、吉田さんと坂口さん、それぞれの『Neo Dimension』への想いをお聞かせください。 吉田: すでにオリジナル版で『FANTASIAN』を遊ばれた方もいれば、タイトルは知っていたものの遊べなかった人もいて、そして『FANTASIAN』というゲームの存在をいま初めて知った人もいるかと思います。『FANTASIAN』は本当にまっすぐな王道のファンタジーで、すごく温かみのあるRPGです。しかも『Neo Dimension』という新作ながら、最初から「おもしろい」とわかっているゲームなんて、なかなかありません。ぜひ新作のような気持ちで、多くの方々にプレイしていただきたいです。 坂口: 『FANTASIAN』がもう一度、いろいろな人に触れてもらえることは本当にうれしいです。ちなみにスクウェア・エニックスは僕の故郷ですが、もうひとつ、任天堂さんも故郷だと思っていて……。だから、Nintendo Switchでも発売できることがすごくうれしい。もちろん、ほかのハードで発売されることもうれしいです。正直、「ヒットしてほしい」というよりも、発売されるだけでうれしくて(笑)。我が子をもう一度、世界に送り出せるというだけで、本当に幸せに思います。