メインターゲットは20~30代の6速MTターボが爆誕。シビックRSに乗ったら五十路も若返る?
2024年1月の東京オートサロンにて、プロトタイプが展示されたときから注目を集めていた「シビックRS」が市販開始…というわけで、公道試乗をする機会を得た。標準車との装備差や、新たにロードスポーツを意味するRSへと進化した背景、そして実現した乗り味についてお伝えしよう。 【写真を見る】すでに1800台も受注を集めているシビックRS PHOTO&REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)爽快シビックevo.にロードスポーツが誕生した 数えて11代目となる現行シビックが発売されたのは2021年8月のこと。当初は1.5L VTECターボだけのラインナップだったが、翌年にはe:HEV(2モーターハイブリッド)や2.0L VTECターボを積むタイプRが追加され、現在のラインナップを構成している。 そんな11代目シビックにマイナーチェンジの時期がやってきた。現行モデル誕生時に謳われたグランドコンセプトは『爽快シビック』というものだったが、マイナーチェンジで目指したのは『爽快シビック evo.』という。現行モデルで目指した爽快体験を広げ、シビックらしさを磨き上げるという思いが感じられるコンセプトだ。 そして開発陣の”evo.”スピリットを象徴するのが、新グレードとして設定された「RS」といって異論はないだろう。このグレード名については、初代シビックの時代からホンダの伝統的なスポーティネスを示すものとして知られている。ホンダファンであれば、「ロードセーリング」の意味が込められている名前であることもご存知だろう。 しかし、シビックのマイナーチェンジにあたって復活した「シビックRS」は、RSという名前についてもエボリューションした。そこに込められた思いは「ロードスポーツ」、まさに進化型6速MTスポーツとなっているのだ! 初期受注で1800/2600台とRSの支持は高い マイナーチェンジ後のシビックは、全体として月販500台を目標としている。販売比率としてはハイブリッド6:ガソリンエンジン4を想定しているということだが、ガソリンエンジンのうち75%はRSになるであろうというのがホンダの読みだ。 つまりシビックRSの月販目標は150台ということになる。しかしながら、驚くのはマイナーチェンジにおける初期受注でシビックRSだけで1800台ほどになっているというのだ。シビック全体では2600台というから、想定以上にRS比率が高いことがわかる。 さらに驚かされるのはシビックRSのターゲットユーザーだ。若年ドライバーにおけるAT限定免許取得率の高さや、シビックRSという響きのノスタルジーを感じるであろう年代などから考えると、中高年向けの商品企画と思いがちだが、ホンダは20~30代のヤングドライバーをメインターゲットとして想定しているというのだ。 しかも、実際にシビックRS初期受注のうち4割以上は20~30代のユーザーになっているという。あえてMTが乗れる免許を取得したようなクルマにこだわりがある層に対して、刺さっているのだ。 スポーツマインドを刺激する「赤」で差別化 あらためて、シビックRSの内外装における特徴を整理してみよう。 シャープな新形状となったフロントバンパーを含め、基本的なボディは標準系シビックと同様だが、ヘッドライトリング、ドアミラーカバー、シャークフィンアンテナ、エキパイフィニッシャー、ホイールナットをブラックタイプとしたうえで、赤いRSエンブレムを前後に配して外観を引き締めているため、一目でRSであることが識別できる。 現行シビックのインテリアにおいて特徴的デザインとなっているのはメッシュの奥にエアコン吹き出し口を隠していることだが、そのメッシュ部分に赤いピンストライプが入っているのはRSの特徴(標準系のガソリンエンジン車がクロームメッキ)。ブラックに赤いステッチの入ったスエードのシートと合わせてスポーツマインドを実感できるインテリアとなっているのも見逃せない。 専用サスペンション採用で標準車より5mm車高が低い 走りにかかわるメカニズムでいうと、1.5Lターボエンジンのスペックこそ標準系と共通だが、シングルマスの軽量フライホイールで差別化。さらにシャシー系はRS専用に味付けされている。 具体的には、ロール剛性が11%アップ、車高は5mmダウンとなるRS専用サスペンションを採用。ステアリングのトーションバーレートを60%高め、フロントブレーキはディスクを16インチ化したほか、ブレーキパッドの面積も拡大している。なお、タイヤについては標準系と共通という。 電子制御系では、ドライブモードにスポーツとインディビデュアルを追加。アクセル操作における出力特性を選べるようにしたうえ、ステアリングの重さについても変化する。このあたりタイプRに近い機能であることを感じさせるが、まさにタイプR譲りといえるのがシフトチェンジ時にエンジン回転数をアジャストする「レブマッチシステム」の搭載で、慣性モーメント30%減としたフライホイールが実現するハイレスポンスを存分に味わえるようになっている。 あえて「MTを操るという楽しみ」を選ぶ贅沢 というわけで変更点の紹介に時間を使ってしまったが、いよいよロードスポーツを目指したシビックRSのスポーツネスを公道で試してみよう。 タイプR譲りのテクノロジーも採用されているということで、ゴリゴリのFFスポーツをイメージするかもしれないが、いざ乗り出すと拍子抜けするほど気軽に乗れるMTスポーツとなっている。シフトはかっちりとしたフィーリングながら重さはなく、クラッチ操作は非常に軽い。レブマッチシステムに代表されるスポーツドライビングのサポート機能もあって、低速での発進も容易。市街地や高速道路で、渋滞に出くわしてしまってもストレスを感じることはなさそうだ。 ストレスといえば、車幅が1800mmで最小回転半径が5.7mというのもポイントだろう。フラッグシップであるシビックタイプRは車幅1890mm、最小回転半径5.9mと街中ではやせ我慢が必要なスペックともいえるが、RSであればシビックに期待する取り回し性能を持っている。また、RS専用サスペンションは標準系とは違う硬さを感じるものだが、けっして乗り心地を悪化させるレベルではなかったことも報告しておこう。 まとめると、いろいろな意味で運転しやすいのがシビックRSといえる。「タイプRに手が届かないからRSを選ぶ」のではなく、日常にスポーツドライビングを感じたいユーザーにとってはタイプRよりもRSの方が向いているといえる。前述したように、シビックRSは20~30代をターゲットにした商品企画ということだが、こうした扱いやすさというのはベテラン層にとってもメリットになるのは言うまでもない。 50代の筆者にとって、適度なパワー感と引き締まった脚、軽快な操作性は1.6L VTECエンジンを積んでいた時代のシビックを思い出させるもので、シビックRSに乗っていると若返りにつながりそう、と思う瞬間もあった。とはいえ、寄る年波なのかスポーツモードを選んだときの鋭い加速には、反射神経の衰えを感じてしまう部分もあり、ノーマルモードがちょうどよく感じたのも事実。 ヤングドライバーは積極的にスポーツモードを選んで「ロードスポーツ」として楽しんで欲しいが、ベテランドライバーはノーマルモードで”ロードセーリング”的にMTドライビングを味わうのもよさそうだ。ユーザーの好みでエンジンや電動パワステの制御を設定できるインディビデュアルモードを活用して、自分なりのRSに味付けるというのもオーナーになった人だけの楽しみかもしれない。 シビックRS主要スペック 「CIVIC RS」スペック CIVIC RS 全長×全幅×全高:4560mm×1800mm×1410mm ホイールベース:2735mm 車両重量:1350kg 排気量:1496cc エンジン:直列4気筒DOHC VTECターボ 最高出力:182PS(134kW)/6000rpm 最大トルク:240Nm/1700-4500rpm 駆動方式:FF トランスミッション:6速MT WLTCモード燃費:15.3km/L 使用燃料:ハイオクガソリン 最小回転半径:5.7m タイヤサイズ:235/40R18 95Y 乗車定員:5名 メーカー希望小売価格:419万8700円
山本 晋也