怪しげな“うわさ”でネットはざわざわ…突然破産した船井電機に学ぶ「企業の危ない兆候」
◆経営者が一番恐れるもの
また、「本業の低迷を受けての新規事業への進出」も、慎重な判断が必要になります。新規事業が本業との関わりがあるのか否か、という点がまずは要注意ポイントです。経営者は焦りが出ると、とにかく手早く稼げそうな事業に安易に手を出して痛い目に遭うこともままあります。 自社開発をベースにした新規事業ならばまだ安心感がありますが、M&Aで企業ごと事業を買収するとなるとより注意が必要です。新たな収益源欲しさに外部に勧められるままM&Aで新規事業を買うことは、一層の慎重さが求められるところです。 船井電機で問題視されている脱毛サロンチェーン、ミュゼプラチナムの買収は、本業との関連が薄く、かつM&Aで企業ごと事業を買収している点から、まさにこれに当たるでしょう。しかもミュゼプラチナムは、買収以前に一度経営破綻している会社であることが分かっています。 また買収後に、ミュゼプラチナムに巨額の未払い広告費が発覚し、親会社として支払保証をしていた船井電機が多額の債務肩代わりをせざるを得ず、資金流失を加速させたといわれています。 これらの事実からは、十分な事前調査のないままM&Aを急いだ末の失敗であった可能性が高いと思われるところです。 業績が低迷を続けた場合に、経営者が一番恐れるのが「資金ショート」です。事業が回っていようとも、手元の支払資金が底を突いてしまえばそれで企業経営はゲームオーバーですから。 銀行の資金協力には限界があり、業績的に先行きの見えない状況下での追加融資は非常に困難になります。そうなると、手持ち資金が手っ取り早く手に入るかのような話を持ち掛けられて、焦りに急き立てられて危ない橋を渡るケースもまま見受けられます。先を急ぐあまり検討に慎重さを欠けば、命取りにもなりかねないのです。
◆火のないところに煙は立たない
「社長周辺の人の出入りの変化」も、会社経営が危ない状況にあるか否かの判断材料になるといえます。怪しげなM&A話を持ちかける者、「M資金」に代表される架空の巨額無利子資金の取り込みを持ち掛け、前払い手数料をだまし取るというような詐欺師までが、経営者に近づいてくることも珍しくありません。 「貧すれば鈍する」とはまさに経営者のためにあるような言葉です。業績の低迷こそが、これらすべてのリスクを現実のものにしてしまう引き金になり得るのです。「業績の長期低迷」は、何よりの警戒事項といえます。 「人のうわさ」も経営の異変を察知する重要情報です。経営におかしな動きが出てくると必ず人のうわさが出るものです。社内から、あるいは付き合いのある社外から、「社長の行動がおかしい」「最近、あの会社変だ」「支払いが危ないという話を聞いた」などなど。 火のないところに煙は立ちません。それがある程度の規模の企業になれば、うわさはメディアで報じられるようになります。船井電機の件も、昨年話題になったビッグモーターの件も、事件発覚前に異変を伝えていたのはネットメディアだったのです。 今回の船井電機の件では、10月の給料日の前日に突如「給料は支払えません」と解雇を告げられたといいます。寝耳に水の突然解雇となってしまっては、翌日からの生活もままなりません。会社員は会社でさまざまな異変兆候を捉えたら、早くに身の振り方を考えることも自己の生活を守る重要な手だてであるでしょう。 <参考> 東京商工リサーチ「船井電機の実質負債800億円、多額の引当不足が露呈」
▼大関 暁夫プロフィール
経営コンサルタント。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントや企業アナリストとして、多くのメディアで執筆中。
大関 暁夫(組織マネジメントガイド)