ツインリードギターを確立したウィッシュボーン・アッシュの『光なき世界』はブリティッシュロック最重要アルバムのひとつ
OKMusicで好評連載中の『これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!』のアーカイブス。今回はウィッシュボーン・アッシュのデビュー作の『光なき世界(原題:Wishbone Ash)』を紹介する。1970年の初め、ディープ・パープルの前座をウィッシュボーン・アッシュが務めた時、その演奏に驚愕したリッチー・ブラックモアはディープ・パープルのプロデューサーに彼らを紹介、それから一年も経たないうちにメジャーデビューを果たすことになる。ウィッシュボーン・アッシュは3作目の『百眼の巨人アーガス(原題:Argus)』で世界的な評価を得るが、僕は今回紹介する『光なき世界』のほうが優れた作品だと思う。本作で確立されたアンディ・パウエルとテッド・ターナーのツインリードギターはロック界の宝であり、その独創性は未だに多くのアーティストに影響を与えている。 ※本稿は2017年に掲載
ブリティッシュロック界を牽引したスーパーギタリストたち
50年代終わりにアメリカで生まれたロックンロールは、当初は黒人のR&Bやブルースと白人のカントリー音楽が合体したフュージョン音楽だった。その後、成長を続け、10年も経たないうちにロックンロールから“ロック”へと変貌していく。特にイギリスへ渡ったロックンロールは、クラシックやジャズとも結び付くなど、独自のブリティッシュロックという形態を獲得する。その中で、ロックギターは本国アメリカよりも過激なかたちで進化し、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジらに代表されるブリティッシュロック・ギタリストを輩出する。 アメリカのロックギタリストたちは、イギリスと比べると基本に忠実なプレーヤーが多い。デュアン・オールマンはブルースとR&B、ジェリー・ガルシアはブルーグラスとジャズ、ジェームス・バートンやロビー・ロバートソンはロカビリーやカントリーと、それぞれのバックボーンをロックへとアダプトしていったのに対して、ブリティッシュギタリストはブルースを基本にしながらも、独自のアイデアを盛り込みながら、どんどん新しい思考やテクニックを編み出していくのだ。 これは寿司に喩えると分かりやすいかもしれない。日本では寿司そのものの形態は変えず、素材の新鮮さなどで勝負するわけだが、外国の寿司はと言えば、アボカドを入れたりマヨネーズを使ったりするなど、ルーツにこだわりがないだけに、まったく新しいスタイルにチャレンジできるのだ。アメリカとイギリスのギターの違いも、これと同じようなものだ。要するに、本場は無意識でルーツを大切にしてしまうが、それ以外の場所では大胆に勝負できるというメリットがあり、そのおかげでブリティッシュロックは大きく花開いたのである。