考察『光る君へ』38話 中宮・彰子(見上愛)と近過ぎる敦康親王(渡邉櫂)の元服を急ぐ道長(柄本佑)…『源氏物語』という虚構が、現実に影響を及ぼし始めた
大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00~)。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語」の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか。清少納言(ファーストサマーウイカ)がまひろ(吉高由里子)に「光る君の物語」の感想を伝えるシーンから始まる38話「まぶしき闇」では、長らく続いてきた伊周(三浦翔平)による呪詛がついに露見して……。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載40回(特別編2回を含む)です。
まひろさまは、まことに根がお暗い
まひろ(吉高由里子)視点で見るききょう──清少納言(ファーストサマーウイカ)の顔と「光る君の物語、読みました」の言葉から始まった。なにを言われるのだろう? というまひろの一瞬の緊張ののち「引き込まれました!」という絶賛の言葉が。 「あんなことを、ひとりでじっとりとお考えになっていたなんて驚きましたわ! まひろさまは、まことに根がお暗い」 思わず(※褒めてます)と注釈を入れたくなるような、けなされてるんだか褒められてるんだかわからない言葉。しかし、かつてのふたりの関係……腹を割ってなんでも語れる仲に戻ったようなききょうの明るい口調を褒め言葉だとまひろは受け取った。しかも、しっかり読み込んでくれている。 「玉鬘の君に言い寄るところの、しつこいいやらしさなど呆れ果てました」 光源氏が養女とした、夕顔の忘れ形見・玉鬘。二十四帖「胡蝶」から二十五帖「蛍」にかけて、36歳の光源氏は10代の彼女を口説くのだ。信頼して世話になることにした養父から突然女性扱いされて驚き、どうしてよいかわからず、震える玉鬘に光源氏が囁く。 「どうしてそんなに嫌がるのです。今まで私は気持ちを押し隠して、誰にも悟らせずにきたのですよ。あなたも周りに気づかれないようにふるまってください。養父として慈しんでいる愛に更にまた違う形の愛が重なるのだから、こんなにも愛される女性は世の中でも滅多にいないというものですよ」……。 いや無理無理無理無理無理無理! 読んでいて思わず叫んでしまうくらいのいやらしさ。 ちなみにこの台詞の後の「いとさかしらなる御親心なりかし」を、与謝野晶子は、「変態的な理屈である」と訳していて笑う。本当にそうよ、さすが与謝野晶子よ。 そこをききょうは「男のうつけぶりを笑いのめすところなぞ、まことにまひろ様らしくて」と評価する。漢籍の知識、そして現実を物語に組み込んで構成していることがわかるのは、同じく漢籍に造詣が深い作家であるききょうだからこそだ。 しかし、昔のような楽しい会話はそこまで。「ききょうが自分と一緒に中宮・彰子(見上愛)に仕えてくれたら」というまひろの言葉で、空気は一変する。 ききょうの皇后・定子(高畑充希)への忠誠心は変わっていない。なにゆえ『源氏物語』を書いたのか、一条帝(塩野瑛久)の御心から『枕草子』を──定子の思い出を消し去るように、左大臣・道長(柄本佑)から命じられたのかと、まひろに問いただす。 まひろ「帝の御心を捉えるような物語を書きたいとは思いました」 31話を振り返る。確かに道長からの依頼ではあったが、光と影の物語、生身の人間のありようと己の人生を全て注ぎ込んだ物語を書きたいという情熱に突き動かされてまひろは筆を取ったのだ。 ききょう「私は腹を立てておりますのよ、まひろ様に! 源氏の物語を恨んでおりますの」 定子の仇である道長の依頼を受けたまひろに怒っている、帝の心から定子の面影を消し去ろうとする『源氏物語』を恨んでいる。作品を恨んではいても、友であったまひろを恨んではいない。怒りと恨みは別のものだ。 『光る君へ』は、史実としては直接の接触はあったのか不明である紫式部と清少納言を、旧知の仲──お互いの才能を認め合った友と設定した。この作品で、ききょうが怒り嘆きつつも、紫式部の才能と生み出された作品を高く評価する清少納言であることに心底感動したし、まるで清少納言が乗り移ったかのような素晴らしい演技を見せてくれたファーストサマーウイカにスタンディングオベーションを贈る。
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