『ほんとうのハウンド警部』山崎一×吉原光夫×鈴木浩介インタビュー
とある舞台公演に足を運んだ若き演劇評論家を主人公に、現実と舞台の世界が交錯していく何とも不思議な世界を描き出す『ほんとうのハウンド警部』(作:トム・ストッパード)が3月、シアターコクーンにて開幕する。『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』に続き、英国が誇る現代演劇界の至宝・ストッパードの戯曲に小川絵梨子(演出)と生田斗真のコンビが挑む本作には共演陣も実力派が揃った。中でも、生田演じるムーンと同じ演劇評論家で、物語のカギを握るバードブートを演じる吉原、そして劇中で展開される推理劇において謎めいた登場人物を演じる山崎、鈴木の3人は、昨年末に上演された『23階の笑い』(ニール・サイモン作、三谷幸喜演出)に続いての共演となる。3人に本作の魅力、そして小川絵梨子演出のすごみについてじっくりと話を聞いた。 【全ての写真】山崎一×吉原光夫×鈴木浩介インタビュー ――舞台上と客席の間で物語が交錯していく本作ですが、最初に戯曲を読んだ感想は? 吉原 最初、徐(賀世子)さんの訳ではない旧訳の戯曲をいただいて、複雑で難しいと思ったんですけど、感覚的には「面白いな」と思いました。ただ、その後、新訳の台本を読んだら怖くなりましたね。 ――怖くなった? 吉原 情報が多くなったんですよね。旧訳は読み物として面白い感覚だったんですけど、新訳は、自分で頑張らないといけない本だなと思いました。 ――面白さはどういう部分に感じられましたか? 吉原 最初のト書きで、舞台設定の説明があって、そこから順番に状況説明が足されていって、そこにムーン(生田)が浮き出てくる――これをちゃんと見せられていれば大丈夫だろうということが書いてあって「ストッパード、おいっ!」って思いましたね(笑)。もうその最初の部分からゾクゾクしました。 ――山崎さんは最初に戯曲を読まれた時の印象は? 山崎 「難しい」という感じがあったんですけど、あ、これは不条理のコメディだなという印象で、別役(実)さんの作品のようなイメージを持ちましたね。こういう芝居があるんですよね、別役さんの作品にも。 ――山崎さんは、劇中で上演される芝居の登場人物であるマグナスを演じられますが……。 山崎 難しさはもちろん感じましたね。光夫から最初に「山崎さん、これどうやって演じられるんですか?」って言われたシーンがあるんだけど「俺もわかんないよ」って(苦笑)。面白い本ですね。ただ一番難しいのは(吉原を指して)こっちだよね(笑)。ムーンとバードブートが軸ですからね、この芝居は。そこが明確になってこないと面白くなってこないでしょうから……頑張って(笑)! 吉原 はい(笑)。 ――鈴木さんは、同じく劇中劇に登場するサイモンを演じられますが、戯曲を読んでの印象は? 鈴木 僕はまず「ト書きがすごく長いなぁ……」って印象と、そのト書きを読んでたらあまりに長いので眠くなっちゃって……(笑)。でも、読み込めば読み込むほど、印象が変わってきて、山崎さんから「浩介、この本、面白いよ。全然難しくないよ。別役さん的な世界観があるから浩介も絶対に好きだと思うよ」ってメールをいただいて、そこからスーッと入ってくるようになったんですよね。物語の構造も。これはネタバレになるので言えないんですけど、あるヒントを一さんにいただけて「そういう読み方をすればいいんだな」って。 ――主演の生田さんに趣里さん、池谷のぶえさん、峯村リエさんといった女優陣を加えたカンパニーとしての面白さや魅力について、実際に稽古が始まってからの様子なども含めてお聞かせください。 吉原 いや、もう最の高でしかないですね(笑)。一さん、浩介さんは『23階の笑い』に続いて、僕を優しく包み込んでくださって……。 山崎 あはは(笑) 吉原 いや、本当です。僕は本当に病気なんじゃないかってくらい、人とうまく接することができないんですけど、おふたりがいてくださるから、すごく楽です。本当に稽古場の空気がいいんですよね。小川絵梨子さんと合っているメンバーばかりで作っている感じがすごくあります。 ――先ほど、山崎さんからも話があったように、生田さん演じるムーンとの会話が軸になってくるかと思いますが、ここまで稽古をされていかがですか? 吉原 いかがですか?と訊かれて、「楽しい」とも「難しい」とも言えないくらい、ハマりこんでいまして……(苦笑)。いつか脱出できるようにしたいんですが、でも自分が好きか嫌いかというと、そういうものはすごく好きですね。いい感覚で細かい心理などをうまくキャッチできればいいなと思っています。 山崎 いや、もう猛者ですよ(笑)。この手の猛者たちが集められたカンパニーですからね。本当に他の人の稽古を見てるだけで面白いです。 鈴木 小川さんの演出が素晴らしくて、芝居しやすい空気を作ってくださるんですよね。僕にとって、この現場は、好きな人、尊敬している方ばかりなんです。生田さんとは初めてですが、生田さんの誠実なお芝居で、最初に生田さんと吉原さんが空気づくりをしてくれるんです。僕らが入っていく時は、また違う空気でやらなくてはいけないんですけど、その対比が、すごくクリアに見えるんですよね。やっていて楽しいし、稽古を観ていても楽しいんです。これは僕、自分がお客さんで観たい芝居だなって思います。