虐待の連鎖を止めるために大切なひとつのこと。「ほどよい育児」のすすめ
東京都大田区のマンションで6月、3歳の女の子が飢えと脱水で衰弱し、死亡した事件。娘を自宅に放置したまま8日間にわたって外出し、死亡させたとして保護責任者遺棄致死の疑いで母親が逮捕された。【BuzzFeed Japan/小林明子】 この事件では、逮捕された母親自身も17年前、母親らから暴力を振るわれるなどの虐待を受け、高校卒業まで児童養護施設で暮らしていたと報じられている。 また、札幌市で2019年6月、2歳の女の子が衰弱死した事件でも、母親が15歳のときに児童相談所での相談・支援を経験していたことが、検証報告書で明らかになっている。
「親に正義を振りかざす支援は逆効果」
不適切な養育環境にあった「被害者」が、親となり「加害者」になるーーいわゆる「虐待の連鎖」を断ち切るためにどうすればいいのか。 保健師でもある武蔵野大学看護学部の中板育美教授(地域看護学)は、「親に正義を振りかざす支援は、むしろ逆効果です」と話す。 7月22日にあった自民党の「児童の養護と未来を考える議員連盟」と超党派の「児童虐待から子どもを守る議員の会」の合同勉強会で、中板さんが報告した内容をまとめた。
虐待された経験、若年妊娠、パートナーからのDV
複数の報道によると、大田区の24歳の母親は約3年前に離婚し、居酒屋で働きながらひとりで娘を育てていた。以前から娘を自宅に置いて仕事に出かけたり、友人と飲食したりすることもあり、5月には娘を残したまま3日間、鹿児島に滞在していたという。 東京新聞などによると、この母親は小学生のとき、実母と養父から身体的虐待や育児放棄を受けて保護され、18歳まで宮崎県内の児童養護施設で暮らしていた。 一方、札幌市の事件は、当時21歳の母親と交際相手が、2歳の女の子に暴行を加えたり、十分な食事を与えず放置したりして死亡させたとして起訴されている。 2020年3月に公表された検証報告書によると、この母親は15歳のときに児童相談所での相談・支援を受けた経験があり、17歳のときに妊娠したが、パートナーのDVにより中絶を経験していた。 中板さんは報道などをもとに、2つの事件で逮捕された母親の共通点として、自身が虐待を受けていたこと、若年での妊娠出産であること、パートナーからDVを受けていたことをあげ、このような対策が必要だと話す。 1.「世代間連鎖」を断つための支援策の強化 2. 虐待された経験のある未成年が妊娠したときに支える仕組み 3. このような母親の支援の入り口となる母子保健の強化 「海外の先行研究などによると、虐待事案のうち、世代間の連鎖が約3割と言われています。7割は連鎖ではないため、連鎖の遮断だけが虐待防止になるわけではありませんが、深刻化しないための対策は必要です」 子どものころに虐待を受けた経験は、自身の子育てにどのような影響を及ぼすのだろうか。 「子どもの頃に欲求が満たされず親に甘えられないまま親になると、子どもの甘えや欲求を受け入れることが難しくなります。『私は甘えられなかったのになぜこの子は求めてくるのか』『痛い目に遭わないとわからないからしつけるのだ』と、自分がされたことを振り返って身体的暴力や言葉の暴力を肯定してしまいます」 「『お前の育て方が悪い』と非難されないよう自己防衛しがちになったり、『言うことを聞かないのは子どもが悪いからだ』と攻撃しやすくなったり、大人と子どもの境界を保てず、自分の欲求が優位になったりする傾向もあります」 こうした関係の結び方を変えるためには、「まったく別の関係の結び方を知ることが大切」とし、虐待を受けた経験がある人が社会から孤立しないように、個別的・持続的なサポートが必要だと話した。