救える命を救いたい…医療現場の希望の翼『ドクタージェット』と課題「今は“お金ないから子どもの命諦めろ”に」
■ドクターヘリより静かで会話可能…ジェットの強み
記者が患者役となり、試験飛行に同乗させてもらった。 ストレッチャーにはレールがついていて、機内に入ってからも振動は少なく、小回りが利いて速やかに搬送された。 離陸した後も、通常の旅客機と何ら変わらないくらいの静かさと振動の少なさだった。安定感もあり、怖いと感じることはなかった。 ドクターヘリなどと比べて、ドクタージェットは「静かでコミュニケーション取れることがいいこと」と伊藤医師は話す。 あいち小児保健医療総合センター 伊藤友弥医師: ドクターヘリとか防災ヘリとか乗ったことあります。ヘリの中は会話もかなり難しいです。上のローターが回ってるので、極端な話、(コミュニケーションを)ジェスチャーで取るしかないことも多い。ドクタージェットは静かですね。医療従事者同士のコミュニケーション取れるのが良いかなと思いますね。
■手段さえあればあの子供たちは今…
ドクタージェットは、長距離をすばやく移動し、さらには患者へのストレスを軽減する。この取り組みを始めたNPO法人「JCCN(日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク)」の福嶌教偉(ふくしま・のりひで)理事長は、自身が心臓外科医だったころ、ある悔しい経験をしたという。 NPO法人JCCN 福嶌教偉理事長: 秋田とか鹿児島とかで心臓移植が必要な子供さんがいて、その患者さんを運ぼうと思ってもほとんど運ぶ方法がなくて、最終的に自衛隊に頼んでもその時はダメで。運べずに亡くなった。そういった患者さんはもっとたくさんいらっしゃると思うんですね。そういった子供さんを助けたい。 日本小児循環器学会などが2017年から2022年にかけて行った調査によると、ジェット機の搬送が必要と判断された小児患者の数は225人だった。 しかし、このうち3人の子どものケースでは、空路での搬送が実現することなく命を落とした。ドクタージェットはその翼に、医療現場の無念を背負っている。
■救える命を一人でも多く…地上では「ドクターカー」導入
名古屋市中川区の名古屋掖済会(えきさいかい)病院は2024年8月、最新のドクターカーを導入した。 患者を病院へ搬送するまでの間もタイムリーな処置ができるよう、消防の救急車とは一味違う、充実の医療設備が搭載されている。 普通の救急車では、ストレッチャーが壁に寄っていることがほとんどだが、中央付近に置かれている。ストレッチャーの両サイドにもスペースが出来ることで、医師や看護師らが左右どちらからでも処置できる。 長時間、安定した心臓マッサージを自動で続けることができる機器「ルーカス」や、搬送中から腹部の出血などを確認するエコーに加え、レントゲンも撮影できる。 名古屋掖済会病院 救急科 後藤縁センター長: 一定の質で胸骨圧迫してくれますし、これがやってくれる分、医療者も手が空きますので、他の処置ができるので有用な機械だと思う。 撮影したレントゲン画像や脈拍数といったデータを病院に送信することや、車内の映像をリアルタイムで病院に共有することもでき、病院までのタイムラグを徹底的に排除した。 搬送段階からの本格的な処置は後遺症の低減にもつながるという。 ドクターカーによって“数分早く”処置が出来ることが、命を助けることに繋がるという。 名古屋掖済会病院 救急科 小川健一朗医師: ここまで積んでいる(ドクターカーは)あまりないんじゃないですかね。現場で情報を収集して、病院側で準備しておく。実際の光景が分かれば、その程度の重症患者が来るかわかる。10分くらい前倒しで色々な物事を進められる。重症患者さんは数分の間に心停止してしまいますので、その数分を稼ぐというのが大きなポイントになると思います。今まで助けられなかったようなギリギリの命を頑張って拾い上げるのが、今回の目的の一つであるかなと思います。