光浦靖子「49歳になりまして」芸歴28年・もう一つの人生も回収したい
東京外国語大学に通っていましたが、英語が話せません
一つのことを追い、極めることが世間では素晴らしいとされています。でも私にはできそうもない。じゃ、どうする? 深さじゃなく、広く浅く、数で勝負するのは? 「逃げ」と「新しい挑戦」の線引きなんて曖昧なもんだ。これは「挑戦」だ。私は文房具屋になりたかった。手芸屋にも、花屋にもなりたかった。留学したかった。海外に住んでみたかった。広く浅く全部に手を出そう。今から全部叶えよう。 と開き直ったのも留学する動機の一つです。 私は東京外国語大学に通っていましたが、英語が話せません。丸暗記のザ・受験英語でなんとか合格した私は、入学と同時に挫折しました。多くの同級生が英語を話せたんですもん。英語は大学で学ぶものじゃなく、専攻語を学ぶ時に使うもの、話せて当然のものだったんです。ぎゃ。スピーチコンテストに学校代表で出ちゃうような背筋ピーンの人たちに、私の発音は笑われました。私のこの性格です。そう、すぐに大学から逃げました。そしてお笑いライブに通うようになりました。
英語から逃げた分岐点に戻って、もう一つの人生も回収したい
外国生まれの日本人の友達がいます。彼女は10代で日本に戻って来た時、虐められたそうです。「違う」と。でも彼女は「世界はここだけじゃない」ということを知っていたから、虐めを乗り越えられたそうです。仕事も友人も住む場所も、「世界はここだけじゃない」を知ったら、どれだけ強くなれるんだろう。私はそれを知りたいのです。英語から逃げた分岐点に戻って、もう一つの人生も回収したいんです。私には時間があり過ぎるし。 コロナ以降、テレビに映る人が変わったようです。お笑い第7世代と呼ばれる若手、去年まで顔も名前も知らなかった人たち。となると、今までその椅子に座ってた人らはどうなるんだろう……のその人らの一人が私です。マジでやばい! リアル緊急事態なはずなのに、不思議と心は穏やかです。コロナで留学もできず今は生殺し状態なのに、行動を起こさなくても、決心するだけで心境は変化するようです。相変わらず、金のかからない女です。 ◆ ◆ ◆ 光浦靖子さんの寄稿「留学の話」は、「文藝春秋」11月号の「巻頭随筆」と「 文藝春秋digital 」に掲載されています。
光浦 靖子/文藝春秋 2020年11月号