サントリー、ビールで貫く「弱者の戦略」 アサヒ追わず革新を追う
業界3位企業にとって、上位2社との差をいかに縮めるかが生き残りの大きな要素となるのは間違いない。だが規模の違いを無視して真っ向勝負を続けると組織が疲弊し、逆に会社の寿命を縮めかねない。ライバルとの力関係を冷静に把握し、じっくりと自社の強みを磨きながら「ゲームチェンジャー」の座を狙う戦略もある。 【関連画像】ウィルキンソン(左端)やカルピス(左から2番目)などの老舗ブランドが柱(写真=遠藤 素子) 「2位を追うわけではなく、大手とは違うことをやる。新しい提案をすれば市場はつくれる」。サントリーの多田寅常務執行役員は同社のビール戦略をこう語る。 国内のビール類市場はアサヒビール、キリンビール、サントリー、サッポロビールの大手4社がほぼ寡占する。アサヒ・キリンの上位2社のシェアはそれぞれ35%前後に達し、サントリーは08年にサッポロを抜いて3位に浮上したとはいえ、上位2社との差は大きい。 ●時間をかけて飲むビール開発 少子高齢化で需要は縮小傾向が続き、消費者の好みも多様化している。しゃにむに上位2社を追うのではなく、変化を捉えた新たな定番商品をつくろうと試行錯誤してきた。従来の開発手法などにとらわれない挑戦を促すため、21年に「イノベーション部」を設立。営業や社外経験者、若手社員など様々な人材を集めた。 同部の成果の一つが、23年4月に販売した「サントリー生ビール」だ。通常の5~10倍となる1万人を対象とした消費者調査で実態を調べたところ、具体的な変化が見えてきた。ビールは「帰宅後のとりあえず1本」から、食中酒などとして時間をかけて飲むようになっていたのだ。調査によると、1缶を飲み終えるまでの時間は平均12分から18分になった。 そこで、飲み終わるまで爽快感が続くビールとしてサントリー生ビールを開発。アルコール離れが進む若者層からの支持を得て、販売数量は当初計画を3割上回った。このヒットが後押しし、サントリーは23年のビール類販売実績で前年比9%増となり、大手4社の中で最も伸び率が高かった。 また、サントリー生ビールは店頭での販売価格が同じ価格帯の商品より10円ほど安い。ライバル企業の関係者は「サントリーは価格戦略がうまい」と指摘する。 マーケティングや価格帯も含めた新たなカテゴリーや市場創造が、3番手であるビール類市場でのサントリーの生きる道だ。上位企業とすみ分け、独自の強みを磨く戦略は、経営資源に劣る中小企業が取る「弱者の戦略」と相通ずる。 振り返ると、1963年にビール事業に参入して以降、45年間も赤字が続いたが、「ザ・プレミアム・モルツ」で高級ビールのカテゴリーを打ち立て、2008年に黒字化を果たした。また07年に発売した第三のビール「金麦」は食卓で気軽に飲む需要を開拓。ビール事業はサントリーグループのチャレンジ精神を象徴する存在でもある。 多田氏は「シェアはあくまで結果」とした上で、「今後も定番商品で正面から勝負をしながら、広い商品群で変化に対応していく」と意気込む。業界3位が独自の強みに投資を惜しまず、上位2社を刺激していることが、需要が縮小する中でもビール類市場が活力を保つ要因にもなっている。