伊藤詩織さん監督映画めぐる双方の主張は? 元代理人は「承諾ない部分は修正を」、監督側は「指摘は不正確」と反論
●伊藤さん側の見解 承諾は得ていないができる限り元の映像と違うものにした
伊藤さんの代理人を記者会見以降つとめる師岡康子弁護士と神原元弁護士が、弁護士ドットコムニュースの取材に応じた。 映画化にあたり、伊藤さんは、ホテルの説得にあたってきたが、現時点で承諾を得られていないという。しかし、2回のCG加工を施し、できる限り元の映像と違うものにしようとしたと説明する。 映像の中で、男性が伊藤さんをタクシーから抱き抱えてホテルの入口に連れていく動きが事件の一番の要であり、かわりにアニメなどを使う手段をとりえないと判断。 「男性がタクシーから自力で降りることも困難な伊藤氏をタクシーからかついで降ろし、その後も自力で歩けない伊藤氏をホテルのドアまで引きずって歩いた映像は、性暴力の決定的な証拠であり、この部分の男性と伊藤氏の実際の動きそのものを変更することは、事実を捻じ曲げる恐れにつながる懸念があります」(発表されたコメントより・一部編集) 提供を受けた映像をそのまま使用することはせずに、男性の髪型やホテルの床の模様などにCGで変更を加えたと説明する。また、英語の注釈でオリジナルとは違うことを示しており、日本公開に向けても日本語で注釈を入れる予定だという。 性暴力事件において、どのように相手と戦うか、いかに証拠が重要か、伊藤さんが性暴力被害者だと信じてもらうためには、映像は使わざるをえなかったとの考えを示した。 また、伊藤さんが性被害を受けたホテルの情報はすでに公に広く知られた事実だとして、映画で明らかになったわけではないとも説明。今回のケースでは、映画がもたらす公益がさまざまな事情よりも上回ると考えているという。 また、神原弁護士らは、西廣弁護士らは警察官の音声について記者会見で「変えていない」と言っていたが、それは事実ではなく、音声を加工しているという。加工の度合いについては議論の余地はあるとした。 西廣弁護士らは、警察官の映像や音声が映画で使われ、取材源や公益通報者を守ることができていないと指摘していた。一方で、神原弁護士らは、警察官は私人ではなく、さらに映画公開以前から、少なくとも警察内部では該当の警察官はすでにほとんど特定されていたが、それでも西廣さん側からの要望を受けて声を加工してきたという。 伊藤さん側は、伊藤さんが西廣弁護士らと「誠実に」やりとりを続け、その中で受け入れた提案もあり、決して自分勝手に映像や音声を使ったものではないと説明する。 加えて、元代理人の西廣弁護士が、依頼者であった伊藤さんをめぐる問題を記者会見の場で明かし、依頼者の守秘義務を破ることでもあり、弁護士職務基本規程違反にあたると指摘した。 「弁護士は依頼者との信頼関係を保ち、紛議が生じた場合は所属弁護士会の紛議調停で解決するように努めることが定められています」(発表されたコメントより) 「西廣弁護士は、(今年)7月31日の協議の場で、伊藤氏が映像の一部を使うことについて、伊藤氏に対し、やっていることはレイプと同じと非難し、本件会見でも同趣旨の発言をしました」(前同・一部編集)
●ホテルと伊藤さんの問題と、ホテルと西廣さんの問題は、別だという主張
伊藤さん側の見解としては、ホテルとの間で伊藤さんと西廣弁護士は誓約書にサインをしているが、ホテルと伊藤さん、ホテルと西廣弁護士、2つの約束が生じているという解釈だ。 伊藤さんがホテルから承諾を得られないことは、あくまで伊藤さんに責任があり、そのうえで映像が使用されたとしても、西廣弁護士の責任は問われず、西廣弁護士が伊藤さんにホテルとの約束を守らせるいわれはないのだという。 神原弁護士と師岡弁護士は、弁護士として、依頼者の守秘義務を守ることは絶対であり、今回の記者会見でのうったえの中に、その絶対的な原則を超える理由は見つけられなかったとしている。