瓶内で40年以上の熟成を重ねた「フランチャコルタ」の驚くべき味わいとは?
熟成を重ねてなおフレッシュさを保つ、デゴルジュマンの秘密。
香りを嗅ぐと、野草やシダなどのニュアンスが、フレッシュ感とともにブワッと立ち上ることに驚かされる。口に含むときめ細やかな泡が舌を洗う、喜ばしい感覚が。マンダリンオレンジのような、熟したながらもなお酸を保った柑橘のと、ムスクの甘やかな香りが鼻腔を抜ける。どこかにハチミツ漬けのカリンを思わせる甘みと酸味のバランスを残しながら、力強い豊満なクリーミーさを伴い、力強い余韻が長く長く続いていく......。 アンナマリア・クレメンティR.S.1980の「R.S.」とは「Recentemente Sboccato(レチェンテメンテ・ズボッカート)」、直訳すると「最近の澱抜き」となる。澱抜き(フランス語でデゴルジュマン)とは、ワインとともに寝かせていた澱をボトルの首元に集め、凍結して除去する作業のこと。それまでほとんど外気に触れず、澱との接触で熟成されてきたスパークリングワインは、デゴルジュマンによって少量の酸素を瓶内に取り込み、ここから風味が花開く熟成段階を経ることになる。一般的なスパークリングワインがノンヴィンテージでも9カ月以上、年数表記が必要なフランチャコルタで30カ月以上の熟成を義務付けているが、アンナマリア・クレメンティR.S.1980の澱の上での熟成期間は実に42年以上。いかに「超熟」なのかがわかるというものだ。 先ほども書いたように、デゴルジュマンによって外気に触れることで、スパークリングワインは酸化のニュアンスを含む複雑な熟成を経るようになる。ところが出荷直前までこれを行わないことで、ワインは澱との接触から生じる複雑さを纏うにもかかわらず、酸素に触れずフレッシュさと力強さを保ちながら熟成を重ねるという、ちょっと不思議な現象が起こる。ちなみに、世界でこの製法を初めて行ったのが、1967年にリリースされたシャンパーニュ「ボランジェR.D.1952」。映画『007』シリーズで主人公ジェームズ・ボンドが愛飲する銘柄としても有名になった。