どんな「適時開示」が、株価に影響を与えるの?
決算短信よりも「業績予想の修正」が株価に影響
決算短信が開示される前から株価が変動する理由は、インサイダー取引ではありません。ここで株価に影響を与えているのは、業績予想の修正です。 決算短信には来期の業績予想(売上高と利益の予想値)が記載されます。(なお、決算短信に業績予想を記載していない会社も、少数ですが、あります。特に証券会社などは、業績予想の算定が困難であるとして、記載していません) その業績予想を修正する場合、それに関する適時開示が必要になります(売上高の予想値は10%以上、利益の予想値は30%以上、それぞれ修正する場合に必要)。この業績予想の修正に関する適時開示は、株価への影響が特に大きなものです。上方修正(予想値を大きくする)は株価を上げますし、反対に下方修正(予想値を小さくする)は株価を下げます。 上場会社は、決算期末後、あるいは決算期末前であっても、今期の業績が業績予想からかい離することが明らかになると、業績予想の修正を開示します。株価はこれに反応するのです。逆に、今期の業績がほぼ業績予想どおりになる場合は、決算期末後しばらく経っても、業績予想の修正が開示されないため、「今期の業績はほぼ業績予想どおりなのだな」と投資家から判断され、それも株価に反映されることになります。
「増資」はプラス材料? マイナス材料?
増資(新たに株式を発行して資金を調達すること)に関する適時開示も、株価への影響を読みとりやすいものの一つです。しかし、業績予想の修正の株価への影響の仕方とは異なり、増資の株価への影響の仕方については、少しわかりにくいかもしれません。増資に関する適時開示は、株価を上げるのでしょうか? それとも、下げるのでしょうか? 答えは、「株価を下げることが多い」です。必ず株価を下げるわけではなく、株価を上げることもあるのですが、下げることの方が多いのです。それでは、なぜ増資に関する適時開示は株価を下げることが多いのでしょうか?その原因は「株式の希薄化」です。 株式の希薄化とは、発行済株式総数の増加によって1株当たり当期純利益などが減少することをいいます。増資を行うと、発行済株式総数が増加し、1株当たり当期純利益などが減少するため、1株当たりの配当の額なども減少します。投資家はそうした株式の希薄化を嫌うため、増資が行われると、株価が下がることが多いのです。 以前、上場会社が増資に関する適時開示を行う前から、その会社の株価が急激に下落し、問題となったことがありました。後になって、増資に関する情報が証券会社から機関投資家へ漏れて、機関投資家がその情報に基づき空売りを行っていたことが明らかになりました(この取引はインサイダー取引です)。 なお、空売りとは、証券会社などから有価証券を借りて、それを売ることであり、株価が下がる局面で行われます。例えば、株価が1,000円のときに株式を借りて、それを売り、株価が700円になったときに株式を買い戻して、それを返せば、300円の利益を得ることができます。機関投資家は、増資により株価が下がることを予想して、空売りを行ったのです。その結果、増資によりただでさえ株価が下がる傾向にあるのに、それに拍車がかかることになったのです。