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CBR1000RR-Rエンジンマニアック解説#4:剛性アップ&冷却性能向上の一石二鳥

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数えきれないほどの開発経験を持つプロですら引きつけられる。それほど’20ホンダCBR1000RR-Rのエンジン設計は突き抜けているのだという。史上最強の自然吸気インラインフォーとして歴史を刻んだRR-Rは、性能を追求し続けてきた直4の最後の金字塔となるかもしれない。本ページでは、新しいシリンダー冷却構造「ビルトインボトムバイパス」が生まれた背景、その本当の狙いについて解説する。 〈関連写真×3枚〉CBR1000RR-Rエンジンマニアック解説#4:剛性アップ&冷却性能向上の一石二鳥

クローズドデッキとしつつ、ケースはダイカストで軽く

やはりホンダがアピールしている新構造に「ビルトインボトムバイパス」と呼ぶシリンダーの冷却通路があります。この目的は「摩擦によるエネルギー損失を抑え、狙いの回転数を達成する」とあります。特許資料を読むと「締結部の剛性を向上させてシール性を良好に保つ」ともありました。 RR-Rのようにシリンダーとクランクケースが別体の構造では、シリンダーがヘッドとクランクケースにサンドイッチされるように強力にヘッドボルトで締め付けられます。二輪車では一般的な構造ですが、小型エンジンでもこの締め付けによるシリンダー変形が問題になる場合があるので、それよりはるかに締め付け力が高い大型高性能エンジンでは、より深刻な問題となることも考えられます。 四輪エンジンはシリンダーとクランクケースが一体で、ダイカストという最も生産性の良い鋳造方法で出来ているのが一般的です。このダイカスト製法の場合、シリンダー上部のウォータージャケットは、まるまる上から見える大きな穴が開きます。この構造をオープンデッキと呼びます。シリンダースリーブの上側が半径方向には何も支えられていないため剛性が低く、一般的なエンジンなら問題なくても、高性能エンジンだとしばしばヘッドガスケットの吹き抜けを引き起こすのです。 対策法はクローズドデッキに変更するのが一般的です。これはウォータージャケットの上側を最小限必要な穴(水通路や鋳造の中子を支えるための小さな穴)を残して塞いだもので、シリンダースリーブ上部の剛性が格段に上がり、ヘッドガスケットシール面に摩耗などが発生しにくくなります。 このクローズドデッキの残念なところはダイカストが使えず、低圧鋳造という製法しか採用できなくなることです。したがってシリンダーのコストが高くなること、ケースとシリンダーを一体化した場合は、アッパークランクケースもダイカスト製ではなくなるため、重量が重くなってさらに生産性が下がるというデメリットがあります。一体構造はケースとシリンダーの剛性が高まり、合わせ面もひとつなくなるのでシリンダー下面からの漏れがなくなるというメリットはあるのですが。 〈写真1〉【オープンデッキとクローズドデッキの違い】オープンデッキはスリーブ上端の支持剛性が低いものの、生産性に優れる。クローズドデッキはその逆だが、高性能を求めるスーパースポーツ系はほぼ全てがクローズドデッキを採用する。 エンジン全体に言えることですが、製造のしやすさ、コスト、強度、剛性、重量、信頼性といった様々な項目のバランスを考えて設計者が構造を決めるのですが、その過程で新しいアイデアが必要になるわけです。大変前置きが長くなりましたが、RR-Rの新しいシリンダー構造は以下のような思考の過程で生まれたのだろうと推察します。 ●最重要案件としてシリンダーのクローズドデッキ(低圧鋳造)は外せない ●アッパークランクケースは重量や生産性、コストを踏まえ、シリンダーと別体のダイカスト製としたい ●別体構造で弱点となる、シリンダーの変形とベース面の漏れ対策が必要 ●そのために新たな構造を発想、開発する必要がある その結果として生まれたシリンダーは下部にも二重構造ができていて、締め付けたときにシリンダーベース面の外側にもしっかり荷重が掛かります。シリンダー内面の変形を抑えつつ、ベース面の面圧をより均一にすることで漏れにくい構造にもなっています。重量は少し重いでしょうが、締め付け時の変形抑制には効果的な形状です。 特許には冷却や暖機性能についても書かれていますが、私はそれらの効果には少し懐疑的で、締め付け時のシリンダー変形を抑えるために考えたけど、下の方に空洞が出来たので冷却水のバイパスに使ってみた……ぐらいのことと思いました。ホースが減って外観がすっきりするのはいいことだと思います。

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