なぜセレッソ大阪は控えに回る機会の増えた柿谷曜一朗の一発で15年ぶり6連勝を果たしたのか?
最前線で感覚を研ぎ澄ましながら、ゴールの匂いを嗅ぎ続けた。一人少ない状況でも必ずチャンスは訪れる。天才と呼ばれた男の我慢と閃きが、セレッソ大阪に15年ぶりとなる6連勝をもたらした。 「感覚が完全に一致したというか、自分のほしいところに来て、自分が打ちたいようにシュートを打てた。パスのタイミングや質、自分の動き出しとすべてが噛み合った結果だと思います」 出場13試合目で決めたようやく今シーズン初ゴールが1-0の勝利を導く千金の一発となった、元日本代表FW柿谷曜一朗が思わず声を弾ませた。ヴィッセル神戸のホーム、ノエビアスタジアム神戸に乗り込んだ16日の明治安田生命J1リーグ第25節。ヴィッセルがAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を戦う日程上の関係で、来月31日から大きく前倒しされた一戦は予想外の展開となった。 両チームともに無得点で迎えた前半33分に、ペナルティーエリア内で先にボールをキャッチしたヴィッセルのGK前川黛也の顔面を、セレッソのFW都倉賢が蹴り上げてしまう。佐藤隆治主審は問答無用で都倉へレッドカードを提示。セレッソはシステムの変更を余儀なくされた。 リーグ戦で初先発していた高卒ルーキー、MF西川潤(桐光学園)を前半41分でベンチに下げたミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は、DF片山瑛一をボランチの位置に投入。ボランチの木本恭生を最終ラインに下げて、さらにFWで先発していた奧埜博亮もボランチの位置へ下げた。 5人の最終ラインの前に3人のボランチを並べ、司令塔アンドレス・イニエスタが7試合ぶりに先発していたヴィッセルが攻め込むスペースを埋める。そして、左サイドハーフとして先発していた柿谷は1トップに回り、ヴィッセルのパスコースを最初に限定する役割を担い続けた。
「それでもひとつ、ふたつチャンスがあるかなと思っていたので。結果的にゴールになってよかったですけど、僕の1点がどうこうよりも、一人少ない、本当にしんどい試合で相手をゼロに抑えた、僕の後ろで守っていたメンバーがすごかったんじゃないかと思います」 試合後には謙遜した柿谷だが、均衡を破った後半17分のヘディングシュートにはセンスと得点感覚が凝縮されていた。 左サイドからDF丸橋祐介が放った直接フリーキックが、相手のブロックにあって右サイドに流れた。DF松田陸が必死に拾ってボランチのレアンドロ・デサバトへつないだとき、ヴィッセルのゴール前、ニアサイドに生じたスペースを柿谷は見逃さなかった。 デサバトが放ったアーリークロスに、ファーサイドから斜め右前へと走り込んでいく。クリアする体勢に入っていたDFダンクレーの死角から前方に現れ、誰にも邪魔されない状態で宙を舞いながら、頭をかすらせてコースをわずかに変える。都倉に蹴られて流血した傷をテーピングで覆い、出場を続けていた前川の必死のダイブも届かず、ボールはゴール左隅へと吸い込まれていった。 横浜F・マリノスに2-1で逆転勝ちした13日の前節はベンチに入れず、その前の北海道コンサドーレ札幌戦はリザーブのまま2-0の完勝を見届けた。一転してヴィッセル戦で今シーズン4度目の先発を託したロティーナ監督のさい配に込められた意味を、誰よりも柿谷自身が理解していた。 「8月もそうでしたけど、9月になっても連戦なので。キヨもそうですし、タツもそうですけど、僕が出られるポジションの選手たちがずっと試合に出続けてきたなかで、どうしても疲労が溜まってくる時期ですし、どこかでチャンスが来るということは、僕だけじゃなくて全員が意識していました」 柿谷が言及したキヨとは同学年のMF清武弘嗣であり、タツとはモンテディオ山形から加入した23歳のMF坂元達裕を指す。キャプテンを務める前者は万全のコンディションのもとでセレッソの攻撃陣をけん引し、レフティーの後者は切れ味鋭いドリブルで右サイドハーフに定着した。