HPVワクチン個別通知スタート 国のねじれたメッセージがもたらす現場の混乱
子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチン。国が積極的に勧めない方針を撤回しないまま、定期接種の対象者にお知らせを送るというねじれた姿勢を取っていることで、現場に混乱が生じている。【BuzzFeed Japan Medical/岩永直子】
東京都中央区保健所は10月20日、「子宮頸がんワクチン定期接種者への周知について」という通知を接種医療機関に出したが、「留意いただく事項」として、「子宮頸がんワクチンの定期接種者への積極的勧奨は引き続き差し控えること」という文言を入れた。 これに対し、現場の医師たちが「医師に勧めるなと言っているように見える」と反発。地元の医師会や産婦人科医会が抗議し、保健所は訂正する事態となった。 一方、東京都の台東保健所は接種の期限が迫っている高校1年生に送るお知らせで、繰り返し接種を勧奨するものではないと強調する。 そもそも国民の健康のために公費を使って広く受けてもらうのが定期接種。なぜ行政は「積極的に勧めない」という矛盾したメッセージを発し続けるのか。 厚生労働省の予防接種室は、国の曖昧な姿勢が現場に混乱をもたらしていることについて、「色々なご意見があるかと思うが、現場での情報を踏まえて必要があれば対応を考えたい。現時点では対応は考えていない」とコメントしている。
ねじれを維持する国と混乱する保健所
HPVワクチンは2013年4月、小学校6年生から高校1年生の女子を対象に公費でうてる定期接種となった。 ところが接種後に体調不良を訴える声が相次ぎ、メディアもセンセーショナルに報じたことから、わずか2ヶ月後の同年6月には国は積極的勧奨を差し控えるよう自治体に通知した。 これ以降、対象者に個別にお知らせが届かなくなり、70%程度あった接種率は1%未満に激減した。 このワクチンの存在さえ知らずにうつチャンスを逃す対象者が増えていることが問題視され、今年10月、国は個別にお知らせを送る方針を決めた。 ところが、一部改正したものの自治体に積極的勧奨を差し控えることを求める通知は残り、その中に「市町村長は、接種の積極的な勧奨とならないよう留意すること」という文言もある。 ワクチンによる被害を訴える人たちの反応に過剰に配慮した結果、アクセルを踏みながらブレーキをかけ続けるような矛盾するメッセージを送っている格好だ。