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中川晃教君とのコンサート 水と油の18年(井上芳雄)

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NIKKEI STYLE

井上芳雄です。9月23日にアッキーこと中川晃教君と『僕らこそミュージック』と題したコンサートを帝国劇場で開きました。見た目も歌い方もキャラクターも正反対の僕らですが、共通点や分かり合えるところも多く、新しい発見がたくさんありました。とても心地よい時間でした。 まさにコロナ禍だから実現した企画でした。その日は、たまたま帝劇が空いていて、僕とアッキーのスケジュールが空いていたので、一緒にやりませんかという話になり、初めての2人のコンサートが実現したのです。アッキーとは自粛中も、ズームで飲み会をしたり、「リモート飲み」の動画をYouTubeに上げたりして、日常的に話をしていました。歌番組で一緒に歌ったことはあるのですが、同じ舞台作品での共演はありません。2人でコンサートをしたことももちろんなかったので、ぜひやりたいと思いました。 僕たちの出会いは2002年。『モーツァルト!』初演でヴォルフガング・モーツァルトの役をダブルキャストで演じて以来、18年のつきあいです。コンサートのトークで水と油と言ったように、見た目も音楽性もキャラクターも全然違った2人。でも、長くつきあっているうちに、だんだん分かり合えて、通じるものを感じています。 アッキーはもともとシンガーソングライターで、出会ったころは、僕と全然違う歌い方をするのに驚かされました。自分のフィーリングを自由に表現するという感じで、今も基本的にはそう。一方、僕はクラシックを学んで、譜面の読み方から始めています。今の気持ちを歌にのせろと言われても、困ってしまうところがあります。アッキーはよく即興ミュージカルをみんなに振ったりするのですが、僕はやめてくれよという感じなので、対極のキャラクターですね。 それが18年たって、僕はアドリブが苦手だったけど、必要性もあってやることが多くなってきたし、もう全然できないとか嫌でもない。アッキーも、ボイストレーニングに行って学んだり、人から影響を受けたりして、今までとは違う歌い方にもトライするようになってきた。いい感じにお互いが似てきたな、水と油ではあるけど、混ざってドレッシングにもなれるんじゃないか。そう感じていたところでの今回の企画でした。 実は似ているところも多いのです。自分ができないことを学ぼうとしたり、トライしたりする姿勢は、とても似ています。分かり合えることも多い。「何年かに一度、大変な仕事に当たるときがあるよね。気軽に引き受けたら、すごく難しくて、どうして受けてしまったんだろうと思うことない?」と以前アッキーに聞いたら、「あるある」と答えてくれて、同じ思いにほっとしたことがあります。お互いの出演作品について気軽に語り合えるのも分かり合えるからでしょうし、年々共通項が増えている気がします。 でも、最初はお互いによく分からなかったのも事実。『モーツァルト!』初演の当時、僕は『エリザベート』に続いて東宝ミュージカル2作目、アッキーは舞台もミュージカルも初挑戦。それぞれ新人が主役に抜てきされた形でした。ダブルキャストで演じると、周りから比べられるし、本当の意味では僕も心を開けなかった。アッキーがヴォルフガング役を卒業して、その後で僕も卒業して、それからお互いに話しやすくなった気がします。同じ役を初演で演じた共通体験が根底にあって、そのきずなが18年後にこんな形で実るとは夢のようなこと。『モーツァルト!』の劇中でヴォルフガングが歌う『僕こそ音楽』が、今回のコンサートのタイトル『僕らこそミュージック』の由来です。 コンサートでは、アンコールを含めて17曲歌いました。選曲は全部自分たちで。ほとんどリモートやラインでしたが、アッキーはアグレッシブで「こういう曲はどうだろう」というラインのメッセージが次々と届きました。僕は返信が早い方じゃないし、舞台の本番もあったのでなかなか返せませんでしたが、なんとか必死で答えるというやりとりを重ねた結果、すごく面白い選曲になりました。 オープニングで歌った『When will I see you again(天使のささやき)』はスリー・ディグリーズの曲で、アッキーが「2人のコンサートに絶対いいと思うんだ」と強く推してくれた曲です。お互いのオリジナル曲を歌い合うコーナーは僕が提案しました。アッキーが作詞・作曲をしたデビュー曲『I WILL GET YOUR KISS』を僕が、僕の『幸せのピース』をアッキーが歌いました。それで分かったのは、2人ともできるかどうかよりも、面白いかどうかが大事だということ。僕はアッキーの曲を歌ったことがないし、得意な曲調でもないけど、「面白いかも」と思って提案したら、すぐに「いいね」。「できるかな」という不安などは問題じゃないという気持ちが伝わってきて、すてきだと思いました。 とにかくやってみる、飛び込んでみる。そこが似ています。2人で歌った『You're Nothing Without Me』はミュージカル『シティ・オブ・エンジェルズ』からの曲で、すごく速い英語のかけあいの曲。アッキーは歌ったことがなかったけど、聴いたその場で「かっこいいね。これは覚えるから」。たぶん苦労して覚えたと思うのですが、「これはできないよ」とか「いいけど、時間が足りないよ」と言うことは全然ありません。 デュエットしていて気づいたことがあります。普通は相手を見ながら歌うのですが、アッキーとだと、あまり見る必要がなかったのです。こう歌いたいとか、こうするというのが聴いていて分かるし、アッキーも聴いてくれているから、見なくても歌える。そのあうんの呼吸って、一緒に歌うときにとても大事なことで、得がたい相手だとあらためて実感しました。最近自覚したのですが、僕はデュエットが大好きです。1人で歌うのが嫌いなわけじゃないけど、誰かと一緒に歌いたい気持ちが強いし、特にうまい人と歌うと学ぶことも多いので。その点、アッキーは本当にうまいので心地よく歌えます。アンコールでは、『夏の終わりのハーモニー』を2人で歌いました。 ミュージカルの曲だけでなく、洋楽邦楽を問わずポップスとかいろんな曲を歌いたいという思いも共通で、アッキーはそれがより強いみたいです。日本を元気にする音楽としてアッキーが選んだのは、中島みゆきさんの『ファイト!』。これも素晴らしかった。 コンサートの後半では、スペシャルゲストとして演出家の小池修一郎さんに登場いただきました。『モーツァルト!』で僕たちを抜てきしてくれた、ミュージカル界での父親ともいえる存在です。キャスティングの裏事情やエピソードなどを語ってくれました。「5年後、10年後にどうなりたいかを考えて、いろんなことをやりなさい」とおっしゃいましたが、それは当時から言われていたこと。小池先生はいつも、ためになったり、先につながったりすることを言ってくださいます。やっぱり“先生”だと思いました。『モーツァルト!』を卒業した今だからこそ、アッキーと僕が小池先生とざっくばらんに話すことができるのでしょうから、やはり18年の年月は大きいものです。小池先生の登場がまた派手な演出で、舞台下からせり上がってきたステージで現れたのですが、そこでかかったショパンの『革命』はアッキーがこだわって選んだ曲でした。

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