『テイルズ オブ ルミナリア』はなぜ短命に終わったのか スマホゲー市場の現在から考える
5月10日、バンダイナムコエンターテインメントが配信する「テイルズ オブ」シリーズのスマートフォンゲーム『テイルズ オブ ルミナリア』が、2022年7月20日でサービス終了となることが発表された。本作は昨年11月にリリースされたタイトルで、わずか8カ月という短い期間でのサービス終了となる。人気シリーズのタイトルでありながら、なぜ本作が短命に終わってしまったのか、本作の特徴やスマートフォンゲーム市場の現在から考える。 【画像で見る】わずか8カ月という短い期間でのサービス終了となった『テイルズ オブ ルミナリア』 ・ストーリーに力を入れた意欲作だが難点も まず、本作はどのようなゲームかを簡単に振り返ろう。『テイルズ オブ ルミナリア』は21人の主人公が登場し、それぞれの視点でストーリーを描くことをウリとした挑戦的なタイトルで、美麗な3Dグラフィックやフルボイスなどからも、開発に力が入っていることがうかがえた。アプリストアのレビューやSNS上でも、グラフィックやストーリーに関しては好意的なコメントが見られた。 その一方で、UIや操作間にはネガティブなコメントが散見された。筆者は本作をサービス終了が告知されてから触ってみたが、一見するとニュースアプリを思わせるホーム画面のUIや、縦画面かつ片手での操作には慣れが必要だと感じた。なにより、『テイルズ オブ』シリーズの戦闘といえば、術や技を繋げていくコンボシステムが特徴なのだが、本作は通常攻撃主体の戦闘となっており、戦闘からは『テイルズ オブ』シリーズらしさを感じることはできなかった。 とはいえ、こうしたUI面の問題は、マイナス点ではあるものの、本質的な問題ではないと感じた。UIや操作感に問題があったとしても、ユーザーの声を聞きながら改善していくことは可能で、ここまで短期間でのサービス終了となるからには、収益性の低さ=課金要素の弱さが原因だったと予想できるだろう。 ・スマホゲー市場の現状は激化 そもそもスマホゲーム市場は競争が激しいレッドオーシャン。特に長期間プレイすることが前提となっているソーシャルゲームは息が長く、新規タイトルでも『Fate/Grand Order』や『モンスターストライク』といった過去にリリースされた人気作と競争を余儀なくされる。また、ソーシャルゲーム以外のゲームの選択肢も増えている。たとえば、『荒野行動』のようなPvPゲームがそれにあたり、今年に入ってからは『Apex Legends Mobile』や『Dead by Daylight Mobile』がリリースされるなど、ほかプラットフォームで人気を博したタイトルのモバイル版は年々増えている。 動画サイトやSNSなどゲーム以外の選択肢との間でのユーザーの時間を奪い合っていることも踏まえると、この市場で成功するのは非常に困難。もちろん、昨年リリースされた『ウマ娘 プリティーダービー』のような新作でヒットをとばすタイトルも存在するものの、それはごくわずかだ。 また、ソーシャルゲームの収益は依然として「ガチャ」のため課金が中心であり、大金をつぎ込む一部のユーザーによって支えられている現状。多くのアプリが人気キャラクターの別衣装や、人気アニメとのコラボ等、ゲーム内外のキャラクター人気を活用して収益をあげている。 ・コンテンツに合わせた収益モデルの必要性 こうしたスマホゲーム・ソーシャルゲーム市場の状況に対して、本作の課金システムは親切であり、言い方を変えれば「弱く」見えてしまう。本作は21人いる主人公全員が新規キャラクターのため、『テイルズ オブ』シリーズでありながら、歴代の人気キャラクターは登場していない。また、ガチャもキャラクターを引くものではなく、装備品をゲットするためのものだけが存在するだけで、キャラクターの魅力を収益に活かしづらいのだ。 これはあくまで筆者の考えだが、本作は「21人の主人公それぞれの視点でストーリーを描く」というコンセプトを多くのユーザーに体験してもらいたいと考え、キャラクターガチャの仕組みを取らなかったのではないだろうか。もしそうならば、競争の激化するスマートフォンゲーム市場で、開発陣の提供したい体験と、収益を上げるための課金システムのミスマッチが、本作を短命に終わらせてしまった最大の理由だといえるだろう。 もちろん、リリース後セールスが伸びず、サービス終了となるゲームは数多く存在し、本作はその一例に過ぎない。とはいえ、今後、早期でのサービス終了が続けば、運営企業や、その元となったコンテンツだけでなく、スマートフォンゲーム市場全体の信用を損なうリスクは軽視できないだろう。 こうしたことを防ぐためにも、運営元は、良質なゲームコンテンツの供給だけでなく、そのゲームに合った収益モデルの選択が必要となってくるのではないだろうか。昨今では、売り切り型のゲームだけでなく『Apple Arcade』や『Google Play Pass』のようなサブスクリプションサービス向けのゲーム開発なども選択肢として存在する。スマホゲーム市場が飽和し、競争が激化している以上、基本無料というモデルが「高くつく」こともあるのだ。
堀江くらは