巨大エンタメ企業に潜んでいた“死角”――ソニーのKADOKAWA買収は外資牽制の一手になるか
海外から買われる日本エンタメ企業の未来
割安な日本企業の株を海外資本が買う動きはKADOKAWAに限った話ではない。セブンイレブンを運営するセブン&アイ・ホールディングスがカナダ流通大手から買収提案を受けていることは繰り返し報道されているが、エンタメ企業に対しても同様にあまり一般紙では報道されない買収、資本参加が相当数行われている。 中国テンセント・ネットイースによる主な動き テンセント ・マーベラスに49%出資(2020年5月) ・プラチナゲームズと資本提携(2020年10月) ・Wake Up Interactive買収(2021年11月) ・KADOKAWAに300億円出資/子会社がフロムの一部株式取得(2022年9月) ・ビジュアルアーツを買収(2023年7月) ネットイース ・ANICIブランドでアニメ投資を推進(2020年6月設立) ・サテライトと資本業務提携(2020年10月) ・グラス・ホッパー・マニュファクチュアを傘下に(2021年5月) ・名越スタジオを設立(2022年1月) 中国IT大手テンセント、ネットイースによるこれらの動きは、双方にメリットのある友好的なものと受止められているが、2024年7月にシンガポールの投資会社による買収提案(TOB)が却下された東北新社の例を挙げ、数土氏はエンタメ企業においても株主、ひいては経営体制の安定の重要性を指摘する。 「創業一族とその関係者が過半数の株式を保有している東北新社は、TOBに対して企業価値・株式価値の向上が見込めないという判断のもと、それを拒否することもできました。これまで日本のアニメ・ゲームなどのエンタメ企業は、どちらかというと市場では『マニアック』な存在で、海外投資家からの注目を集めてこなかった。その状況が近年急速にかわったわけですが、多くの企業で資本構成における備えが取れてこなかったということでもあります」(数土氏) 数土氏は、海外展開におけるシナジーは認めつつも、富が海外に流出することにもつながる外資によるエンタメ企業の買収は「残念」でもあり、それに対抗するには株式価値や企業価値のさらなる向上で買収へのハードルを上げることが最も重要だ、とも指摘した。 逆に、北米では東宝が24年10月にアニメ製作・配給大手のGKIDSを買収、KADOKAWAもこれまで北米翻訳出版社のYen Press、アニメ情報サイトAnime News Network(ANN)や英語ラノベプラットフォーム大手J-Novel Clubを買収するなど海外における日本企業の存在感も増しており、日本アニメ・マンガ人気の高まりを受けて市場の主導権を巡る動きはこれからも激しくなることが予想される。 筆者からは国内新聞社やテレビ局などのマスメディア企業に対しては、外資規制(外国人株主比率を20%未満に抑える放送法・電波法による)が存在しているが、国が基幹産業化を目指すエンタメ・コンテンツ企業に対してもなんらかのルール整備が必要ではないかとも指摘している。そもそも、ヒットに左右されやすく他の産業に比べて安定的な経営が難しいエンタメ事業会社が株式の公開によって市場から資金を調達する意義も再確認される必要もあるだろう。
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