『FANTASIAN』レビュー。坂口×植松タッグによる新作RPGには、“あのころのRPGのよさ“と“新鮮な驚き”が詰まっている
『FANTASIAN』前編をクリアーして感じたこと 「ふつうのRPGが遊びたいんだけど、何かない?」 【この記事の画像をもっと見る】 ちょうど『FANTASIAN』をプレイしている最中に、たまたま妻にこう聞かれた。長らくリアル『子育てクイズ マイエンジェル』に奮闘中のためゲームから離れ気味だが、根っこの部分の“ゲーム好き度”はとても高く、実際に遊べるかどうかは別として、いまはRPGの気分らしかった。 「とにかくふつうのRPGが遊びたい。ストーリーがあって、町とかダンジョンがあって、戦闘が楽しくて、たまにハラハラドキドキして、最後にちゃんと終わるやつ。あと、宝箱を開けまくりたい」。だから、まだクリアー前だったけど、「坂口(博信)さんの新作、いい感じだよ」と答えた。その後、クリアーしたあと妻には、「『FANTASIAN』、時間があるときに遊んだほうがいいよ」と伝えた。このあともゲームは【後編】のリリースが控えているけど、ひとまず【前編】を終えた段階での感想を綴っていきたい。 キャラクターについて 『FANTASIAN』のよかったところの筆頭として、キャラクターを挙げたい。どのキャラクターにも人間味があり、愛嬌があり、飾ったセリフがなく、自然体なところがとてもよかった。少なくとも主要キャラクターには裏表がなく、優しさや思いやりや信念が行動の基軸になっている。ストーリーが完結していない段階なので、ゲーム……とくにRPGやADVにとってとても大事な【プレイ後の余韻】については何とも言えないが、みんないいやつで、人としての優しさがしっかりと描かれていて、いい結末を迎えてほしいな、と思わせてくれる。 ちなみに、個人的な推しは迷うことなく“シャルル”だ。かわいくてピュアでまっすぐな天然ツンデレ。王女でありながら民衆に寄り添い、人望も厚い。そして戦闘では主力として活躍してくれる。頼りになる。いまはいろいろあってパーティから抜けているけど、きっと無事でいてくれると思う。早く再び合流したい。 ジオラマについて けっこう前にミストウォーカーさんにお誘いいただいて、制作中のジオマラを見せてもらったことがある。職人の皆さんが手作業で時間をかけて丁寧に作られていて、とにかく圧倒されたのだけれど、一方で、これがゲーム画面になって、この中をキャラクターが走り回ることがうまく想像できなかったことも覚えている。 で、実際にプレイしてみたら、2Dグラフィックとも3Dグラフィックともまた違う、ジオラマがベースにあるからこそのリアルな質感・空気感が漂う世界が広がっていて、その中をCGで描かれたキャラクターが自由に走り回っていて、なんとも独特でおもしろい。プレイしているとジオラマ世界に慣れてくるんだけど、シーンが変わるタイミングなどで「あ、そうだ。『FANTASIAN』はジオラマから成り立っているんだった」と強烈に意識することもあって、その意識の振られかた、頭の中の馴染みかたもなんだか楽しかった。これはプレイしないと実感してもらえないかも。 それにしても、ジオラマ職人の皆さんのこだわりたるや。何があるわけでもない民家の部屋の細かな装飾にまでこだわりが詰まっていて、視覚的にも飽きることがない。このあと記述する探索の楽しさも、この土台のこだわりがあるからこそ、だと思う。 街やフィールドの探索について 坂口作品のファンの方は同意してくれると思うのだが、この『FANTASIAN』も期待どおりに“何かありそうなところには何かがあり”、“怪しいところはやっぱり怪しく”、そして“ここには何もないよな……あ、あった!”といった意外性もちゃんと用意されていて、街もダンジョンも期待を裏切らない構造になっている。坂口さんらしいサービス精神がたっぷり詰まっていて、ややもすると面倒に感じがちな新しい街の探索にも自然に熱中してしまうあたり、絶妙だった。ちょっとした寄り道が苦にならない(唯一、民家の中などで発生するサブクエストの位置がマップ画面で表示されないため、あとあと迷ってしまうことがあった。ここ、改善されるといいな)。 “ストーリーには影響しないけど、人々の暮らしぶりや人柄を感じさせてくれる何気ないNPCのセリフ”もとてもよかった。こういったところがちょっとしたユーモアを交えながら丁寧に描かれていると、やっぱり嬉しくなってしまう。『FANTASIAN』はしっかり、そういうゲームになっている。 それからもうひとつ。ダンジョンもちょっと寄り道したくなる構造(メインルートはあっちだってわかっているけど、でもこっちに何かありそうだからちょっと寄り道してみよう、となることがとても多い)になっていて、このダンジョンの探索と、後述するディメンジョン・システムとの相性がとてもいい。宝箱まであと少し、というところで敵とエンカウントしてしまって、「あー早く宝箱開けたいのに‼」ってちょっとイラっとした経験、皆さんありますよね? そういったストレスがディメンジョン・システムで相当軽減されていて、ダンジョン内の探索がかなり快適。……なるほど、ひとつのアイデアが複数の問題を解決している好例とも言えるのか(詳しくは後述)。 バトルについて バトルはランダムエンカウントで発生して、オーソドックスなコマンド選択式(リアルタイム制ではない)で進行するが、攻撃の軌道を任意で調整して、複数の敵をエイミングして一度に攻撃できるスキルが多いことが特徴その1。特徴その2はディメンジョン・システムで、フィールドやダンジョンを探索している際に敵とエンカウントしても、以前に遭遇済みのモンスターならその場でバトルせずにストックできる。ストックできる数には上限があり、上限に達するか、プレイヤーの任意のタイミングでバトルしなければならないのだが、このシステムのおかげで、探索がかなり快適になっている。ちょっと進んでエンカウント、またちょっと進んではエンカウント……という、往年のRPGにありがちだったイライラ現象がかなり解決されているわけだ。 加えて、ディメンジョンバトルでは複数種のお助けアイテムが出現したり、前述のエイミングシステムで4、5匹のモンスターを一度に攻撃できたりと、敵の数が多いことを逆手にとった、爽快感が感じられる仕様になっている。エイミングはミリ単位の微調整が必要で、かつ頻繁に行うことになるのだが、これも慣れるとついつい夢中になってしまう。ちょっとクセになるというか。まとめると、ディメンジョン・システムにより探索が快適になり、さらに作業になりがちな通常バトルにもイベント性が加味されている(経験値も当然ながらまとめて得られる)。こういった発想、仕様も坂口作品らしいところだ(個人的には『ブルードラゴン』のバリバリアを思い出した)。 そして、本作のバトルの醍醐味はいわゆるボス戦にある。ボス戦の前にはセーブポイントやアイテム補給ポイントが用意されていることが多く、「このあとボス戦だな」と雰囲気から気づかせてくれる。いざ登場するボス級モンスターは、いかにもなビジュアルと演出を纏い、嫌らしい特殊攻撃で攻め立ててくることがほとんど。味方パーティーの想定レベルから計算されているであろう攻撃力はなんとも絶妙で、とくに後半は手に汗握るバトルが続く。もちろんボスごとに攻略法が用意されており、弱点をつければバトルが格段に楽になって勝機が見えてくる。まさに“あのころ”のバトルの緊張感、なのだ。だからこそ勝つとうれしいし、自然に安堵のため息も出る。ボス戦のバランス(ぬるすぎるとつまらなく、かと言ってあまりに強すぎると萎える。いい具合のハラハラドキドキ感と達成感を味わいたい)ってとても重要で、本作は中盤から後半にかけてのボス戦手応えカーブの上がり具合がとてもよかった。 バトルに紐づくキャラクターの成長システムについてもちょっと書いておきたい。『FANTASIAN』前編の後半までは、じつにオーソドックスなシステムで、プレイヤーが工夫する余地はほぼない(武器、防具、アクセサリーの付け替え程度)。育成システムとしてはあまりに簡素で、「これは正直物足りないかも」と思っていただけに、成長マップがオープンしたときのカタルシスはヤバかった! 圧倒的「そうそう、これこれ!」感。『FANTASIAN』後編のキャラクター育成が、がぜん楽しみになった。プレイヤーの好みが強く反映されるキャラクター育成システムが個人的に大好きなこともあり、これはうれしかったなー。成長マップの画面の破壊力、ぜひ皆さんにも味わってもらいたい(笑)。 音楽について 音楽について詳しく語れるほどの知識レベルはまったくもってないのだけれど、とにかく最高だった。心に沁みた。その時々のシチュエーションと音楽・楽曲が混ざり合ってひとつの完成形になっていて、不安になったり、気持ちが昂ったり、笑ってしまったりと、感情を大きく増幅させてくれる。音楽が強く主張しすぎているわけではないけど、思わず立ち止まって聴き入ってしまうこともままあった。自然に耳に残るのだ。「こういった形で全曲作るのはこれが最後かもしれない」と植松(伸夫)さんはおっしゃっていたけど、植松さんと坂口さんの深い信頼関係と、そのうえで植松さんが精魂込めて全曲作っているからこそ、ここまで心が震えるのだろうと思う。おふたりへのインタビューでも触れているが、坂口さんにはまたいつか新作を作ってほしいし、そのときにはぜひ植松さんを口説いてほしい、とここで改めてリクエストしておきたい(笑)。 懐かしい手触りだけど、新しい冒険が体験できる つらつらと書かせてもらったが、【前編】が終わった段階の総括として、個人的に『FANTASIAN』はかなり好みで、気持ちよくこの世界に浸っている。と同時に、『ファイナルファンタジーVI』的に冒険の自由度が広がるという【後編】がすでに待ち遠しい(できることならすぐに遊びたい)。 懐かしい手触りだけど、体験する冒険は間違いなく初めてのもの。そして、新鮮な驚きとワクワクも感じられる。ゲームスタイルはいま風ではなく、昨今主流のAAAタイトル群とは方向性も異なる。でも、『FANTASIAN』は創意工夫を凝らしながら、細部に至るまでとても丁寧に作られている。坂口作品と付き合いの長い人は、僕と同じように安心感を覚えながら冒険できると思うし、そうではない人には、「何これ、新しい」と感じてもらえるのではないだろうか。 なお、プレイ環境はiPad Proとコントローラで、コンソールのタイトルをプレイしている感覚と変わらずで、基本的に快適だった。いまは改めてiPhone 12のタッチ操作メインでプレイしているが、こちらもまったく不自由はない(が、老眼という敵に直面していて悲しい)。 Apple Arcade専用というハードルはあるが、対応デバイスをお持ちなら、ぜひApple Arcade(月額600円)に加入して本作を体験してほしい。こんなことを大っぴらに書くのもなんだけど、1ヵ月間無料サービス(対応デバイスを2020年10月以降に購入している場合は3ヵ月間無料【※】)がデフォルトで付いていたり、いまいち合わないな、と思ったらすぐにサービスから抜けられるので、その点も安心して大丈夫。すでにApple MusicやApple TVを利用しているなら、Apple Oneに加入したほうがお得だったりするで、このあたりは検索してお得なチョイスをしてほしい。いずれにせよ加入自体は面倒ではなく、ここさえクリアーしてしまえば、「王道の大作RPGって、こうだったよな」と久しぶりに感じながら、気づくと世界とキャラクターの行く末に気を揉んでしまうような、ワクワクするゲームプレイが楽しめます。この手触りと、伝わってくる温かみを、ひとりでも多くの人が味わってくれますように。 (林克彦/ファミ通グループ代表) ※2020年10月22日以降にAppleまたはApple製品取扱店で新たに購入し、デバイスを起動、さらに最新バージョンのiOS、iPadOS、tvOS、macOSに対応するiPhone、iPad、iPod touch、Apple TV、Macをお持ちの場合は、3ヵ月無料体験が可能となります。詳細はApple Arcadeの公式サイトでご確認ください。 『FANTASIAN』 プラットフォーム:Apple Arcade 対応端末:iPhone/iPad/iPod touch/Apple TV/Mac コントロール:キーボード+マウス(タッチパッド)/ゲームコントローラー 言語:日本語/英語(全世界150ヵ国以上で配信) プレイ総時間:前編20~30時間、後編20~30時間(前編のみ配信、後編は2021年後半に配信予定)
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