弟の障がいだけじゃない。DV・不倫・自殺未遂・カルト宗教…壮絶な子ども時代に感じたこと【経験談】
重度知的障がいで自閉症の弟がいる平岡葵さんは「きょうだい児」です。『きょうだい児 ドタバタ サバイバル戦記 カルト宗教にハマった毒親と障害を持つ弟に翻弄された私の40年にわたる闘いの記録』(講談社)では、平岡さんの幼少期から大人に至るまでの、凄まじい家庭での体験が描かれています。平岡さんの苦労は、弟の障がいに関することだけではありませんでした。詳しくお話を伺っています。 【漫画】を読む→弟の障がいだけじゃない。DV・不倫・自殺未遂・カルト宗教…壮絶な子ども時代に感じたこと【経験談】 ■DV・オーバードーズ・弟の障がい・カルト宗教といった家族の問題 ――まず、家族構成についてお伺いしてもよろしいでしょうか。 父・母・弟の4人家族でした。実は13歳年の離れた兄もいたのですが、2歳のときに小児白血病にかかってしまって。主治医が勧めてきた新薬を投薬したところ、兄は翌日に亡くなってしまったそうです。 父は寿司職人で、私が5歳頃までは自営で寿司屋を営んでいました。寿司屋は繁盛していて、私も手伝わされていた記憶があります。ただ、経営が下手だったみたいで、閉業しました。寿司屋をやめた後は、たまにバイトしていたものの、父は途中から経済的DV(家族に充分な生活費を渡さないこと)をしていたので、お金を隠してしまって。 母は専業主婦だったのですが、縫製が上手くて、私が中学の頃から自宅で仕事をしていました。私が小学生の頃はオーバードーズ(OD)をしていて、水を飲ませるなど、そのケアが大変でした。 私は1978年生まれです。弟は1歳年下で、重度知的障がいと自閉症、強度行動障がいもありました。障がいのない私はできることが当たり前で、障がいのある弟を助けるよう言われながら育ちました。 ――子どもの頃、特に印象に残っているできごとはありますか? 両親はカルト宗教を信じていたんです。父方の祖父が白血病で亡くなり、13歳差の兄が白血病を患ったうえ、医療事故で亡くなり、父の中の医療や社会への不信感が膨らんでいました。 兄が亡くなった10年後に私を授かったものの、男ではなくて、その1年後にやっと男である弟が生まれたにもかかわらず、障がいがあった。祖父・兄・弟に病気や障がいがあるという経験から、完全に世間を信じられなくなり、「弟の障がいは神様が治せる」と信じ、私がまだ保育園に通っていた頃に、一家揃ってカルト宗教に入信しました。 小学校入学後はカルトの勉強をするよう言われ、ほとんど学校へ行かせてもらえなくて。山登りや滝行といった修行もしました。両親はカルトで忙しく、弟の世話は私がほとんどしていました。中学に入ってからは学校へ行けたものの、毎日カルトの修行があって、勉強時間を確保するのが大変で。 寿司屋で相当儲けたらしく、そのお金がカルトにつぎ込まれていました。贅沢はできないものの、生活に困ることはないくらいでしたが、私自身のお小遣いはなくて、買ってくれるのは参考書だけ。親は将来、自分たちを介護させるために、私の教育費の支出をためらいませんでした。私のためではなく、将来、面倒見てもらうための先行投資です。 それでも勉強に関する費用は出してもらえることがわかったので、小6の終わりには、「18歳になったら実家を出るために勉強を頑張るしかない」と、6年計画を立てていました。 カルト関連では、ある日、霊媒師が家にやってきて、「トイレの場所が原因で、家族に災いをもたらしている」と言い、親はそのまま信じてしまい、トイレが壊されてしまって。場所を変えるわけでもなく、ただ壊したんです。それ以降何年もの間、一度、家の外に出てトイレに行かなきゃいけなくなったのが本当に困りました。 ■「不倫くらい」ではない ――作中では、お母さんが不倫をしていたことも描かれていました。子どもにとってショックなことだったと思います。 霊媒師の一言がきっかけで、母の過去の不倫が発覚しました。あるとき父が不倫相手を呼び出し、私はそのお茶出しをさせられたことをよく覚えています。 不倫相手のおじさんは「バレたら子どもたちを傷つけてしまう」と自分の子どもを守ろうとして謝罪していました。「不倫をした親の子」という立場は同じなのに、相手の子どもと自分の扱いの違いがショックで。今でも芸能人の不倫ニュースがトラウマで見られないんです。 母の不倫発覚以降、父が母に身体的暴力をふるうようになり、それを見て、弟はパニックになりましたし、私は父から「淫乱の娘」と言われてもいました。中学生になって、母がどんなことをしたのか理解できるようになったとき、本当に気持ち悪くて……。大人は「たかが不倫」と思うかもしれませんが、子どもの私にとっては、心が殺された出来事だったんです。 ――作中では、お母さんがODで自殺未遂した話も出てきました。 父のDVが始まって、最初は物を破壊していたのですが、次第に直接母に暴力をふるうようになりました。朝起きると母がアザだらけなこともありましたし、私が父のDVを止めようとして、ふっ飛ばされたこともありました。 そんな中、あるとき、母がODで自殺未遂をして。救急車も警察も来て「お母さんが死んだらどうしよう」「このまま児童養護施設に連れていかれるのかな」とすごく不安でした。父が逮捕されたら生きていけなくなると思い、父を庇って何もわからないフリもしました。 弟は母がいなくなって、パニックで家中の窓ガラスを頭突きで割っていました。2月だったのですごく寒かったのを覚えています。実際は1時間もかかっていなかったと思うのですが、時が止まったような感覚で。地獄みたいな時間で、一番印象に残っています。 ■いじめられたら「自分でやり返せ」 ――学校でいじめられたとき、暴力で仕返しをすることに、お父さんのお墨付きがあったのには、読んでいてびっくりしました。 最初は「そんな奴、お父さんが殴ってやる」と言ってくれるのを期待していたので、「自分でやり返せ」と言われたのは、梯子を外された気持ちだったんです。 「いいんだね?ボコボコにするから」と確認をとったところ、父は「やられたときにやり返さないなら、これからどうやって生きていくんだ」「やってやれ、そのときは俺が責任取ってやるから」と言ったので、自分でやるしかなくて。父の言質を取って利用してやりました。 父親は気性が荒くて、兄が小児白血病で亡くなったとき、包丁を持って主治医に会いに行ったらしいですし、役所を始め、色々なところにクレーム電話をかけていたような人です。 普通だったら、親御さん同士で話し合ったり、学校でのことなら先生に相談したりなどの対応を取ると思うので、まさか全部自分で解決しろと言われると思わなくて。正直、孤独感はありました。でも、今まで誰も助けてくれなくて、これからも両親が守ってくれないのはわかったので、もう自分が強くなるしかないと思いました。 ※後編に続きます。 【プロフィール】 平岡葵(ひらおか・あおい) 1歳年下の弟が重度知的障がい、自閉症、強度行動障がいを持つきょうだい児。保育園時代に一家でカルト宗教に入信し、修行等を強いられる。小学生のとき、母親の過去の不貞行為が発覚し、父親による家庭内暴力が始まる。母親は家出と薬の過剰摂取を繰り返すようになる。そうしたなかでも学業に励み、慶應義塾大学経済学部に合格・卒業。現在は家族と絶縁し、企業で働く傍ら、かつての自分と同じ境遇にいるきょうだい児たちとSNS等で交流し、彼らの精神的サポートもしている。 インタビュー・文/雪代すみれ
雪代すみれ