第2の大敗戦「失敗の本質」(レビュー)
1957年の英国ウィンズケール、79年の米国スリーマイル島、86年の旧ソ連チェルノブイリ。原子力の巨大事故ってのは大国が衰亡するときに起きるみたいで、2011年のニッポン福島も例外じゃない。 ジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれてからバブルの爛熟までが、坂の上の雲に昇り詰めた10年だったなら、バブルの崩壊から現在ただいままでは、坂の下の糞めがけて転げ落ちてきた30年。その転落のさなかに起きたのがTEPCOとやらのF1事故でした。 あれから10年、この国はコロナワクチンの接種開始がG7サミット参加国中ビリ、平均賃金で韓国に追い抜かれと、引き続き衰退街道を驀進中。このいつまでも終わらない第2の敗戦について考えるために読むべき書は多いとして、そこにまた良質な一冊が。 『東電原発事故 10年で明らかになったこと』は、事故の年に朝日新聞を辞めてフクシマを追い続けてきた添田孝史の新著。既刊の新書2冊も、理系の修士課程出身の元科学部記者という来歴を裏切らない、まっとうな知識とまともな取材にもとづく良書でした。 が、原発ドッカーンから10年、隠蔽の破れ目から見えてきた東電だの役所だのの連中の痴態惨状を時系列ベースで明かすこの本には史書の趣きさえあって、思い出されるのは名著『失敗の本質』。ニッポンの自滅の根本原因たる非科学・不遜・無責任その他いろいろがここにもまた、テンコ盛りなんでね。 [レビュアー]林操(コラムニスト) 新潮社 週刊新潮 2021年3月18日号 掲載
新潮社