「タネ無し」バナナの「衝撃の増え方」知ってましたか
私達の身の周りは道端の雑草からスーパーに並ぶ野菜まで様々な植物で溢れていますが、よく考えてみると答えがわからない様々な疑問が頭に浮かびます。 【画像】樹木、花、そして細胞…これが、「デカイ」植物です。 そんな植物にまつわる「謎」に第一線で活躍する研究者たちが答えてくれるのが日本植物生理学会WEBサイトの人気コーナー「植物Q&A」です。このたび3000を超える質問の中から厳選された60のQ&Aが1冊の本にまとまり、ブルーバックス『植物の謎 60のQ&Aから見える、強くて緻密な生きざま』として刊行されました! 今回は、収録されたQ&Aの中からバナナのタネに関するものをご紹介。バナナをどうやって増やしているか、皆さんはご存知ですか? 早速見ていきましょう。 ※本記事は、『植物の謎 60のQ&Aから見える、強くて緻密な生きざま』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。
Q.バナナは種子がないのに、どうやって増やすのか?
種子のなさそうなバナナを、どうやって増やすのでしょうか。 そもそも、バナナの木は、普通の木と違っているように見えます。どんな木なのでしょうか。 (会社員の方からの質問)
A. じつは、4種類の増やし方があります
日本では生で食べる生食用バナナが一般的ですが、東南アジア地域では煮たり焼いたりして食べる料理用バナナが重要な食料になっています。どちらも種子なし果実をつける品種が広く栽培されていて、株分け、挿し木、接ぎ木、成長点培養などで株を増やしています。バナナは数メートルを超える大きな植物ですが、「木(木本)」ではなく、多年生の「草(草本)」で、一生に一度だけ果実をつけます。 果実ができると地上部は枯れてしまいますが、地下部は生きています。地下部には塊状にふくらんだ地下茎(根茎)があり、これが側方へ枝を伸ばし、そこから新芽(吸芽)が出てきます。「株分け」は、この吸芽を次世代として栽培するのです。株分けした後、開花結実するまでには3年ほどかかります。 ところで、バナナはなぜ「種子なし」なのでしょうか。その要因には、「単為結果性」によるもの、「種子不稔性」によるもの、「三倍体性」によるものなどがあります。 単為結果性とは、受精することなく子房、花被、花などが肥大して果実を形成する現象で、完全な種子ができません(不完全種子系統)。食用になる果実では珍しいことではなく、バナナの他にトマト、パイナップル、ミカンなどに見られます(実際は育種の過程でこのような系統が選択されてきたからです)。 ある種の果樹では、植物ホルモンを使って人為的に単為結果を誘発させることもできます。代表例としては、ジベレリンの溶液につけることでできる「種子なしブドウ」があります。種子不稔性は、受精しても胚発生が途中で中断されるため、種子ができない突然変異系統で、バナナ、ブドウ、モモにこの系統があります。 三倍体性は、染色体セットが奇数で正常な核組成の配偶子ができないため、種子ができないものです。普通の植物は、遺伝子が組み込まれた染色体を、父親と母親からそれぞれ1セットずつもらうので、2セットもっていることになります。これを「二倍体」といいます。二倍体植物にコルヒチンという薬剤をかけると、四倍体の植物が得られます。この二倍体と四倍体とを交配させると三倍体の種子ができます。 この三倍体の種子を育て、咲いた花の雌しべに二倍体の花粉を受粉させると、子房がふくらんで果実はできますが、種子はできません。三倍体は染色体セットが奇数(3セット)のため、生殖細胞ができるときに染色体を半分に分けることができず、花粉や卵細胞が正常につくられません。そのため種子ができないのです。 『植物の謎 60のQ&Aから見える、強くて緻密な生きざま』
日本植物生理学会