大根の風味を大切に。出汁も味噌も控えめにした、しみじみおいしい冬の味
プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”
身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を教わります。
大根のふろふき
今日は大根のふろふきです。ふろふきは大きく切った野菜を茹でたり炊いたりしたものに、調味料を加えて練った味噌をかけて食べる料理です。 名前の由来は諸説あります。冬、漆器職人が漆の乾きが悪くて困っていたところ、ある僧から大根を茹でた蒸気を漆風呂(漆器の貯蔵室)に入れると乾きが速くなると聞き、そのとおりにやると大変効果があった。そこで茹で汁を取るため大根を茹で、残った大根に味噌をつけて食べることを「風呂吹き」大根と呼ぶようになったとする説が有名です。他にも熱い大根をふうふう吹いて冷ましながら食べる仕草が、風呂を沸かす火をおこすのに息を吹きかける様子と似ているからとする説なども。
茹でたての大根に温めた味噌をかけてあつあつを食べる、これが昔ながらの方法ですが、数々のおいしいものを知っている現代人が、このシンプルな味で本当においしいと感じるでしょうか。かといって、かつお節と昆布の出汁でおいしく炊いた大根の煮ものに味噌をかけるのは、やり過ぎの感があります。 そこで食感を残して茹で、油焼きした大根に味噌をかけるという方法はどうでしょう。これなら油分の旨みも加わり、大根の風味、歯ごたえもあるので、相当口の肥えた人にもおいしいと言わせることができます。 今日はさらに別の方法をお教えします。煮ものの半分くらいの薄い味をつけた昆布出汁で歯ごたえを残して炊き上げた大根に、通常より少なめの味噌をかけるというものです。このやり方なら茹でただけの大根と違って水っぽくならず、たっぷりの味噌で大根の風味が消されることもありません。 今回は鉢に盛りましたが、銘々の器であれば、大根とともに味をつけていない熱い昆布出汁も少量注いでください。味のついた昆布出汁にすると、味噌と一緒に食べると味がくどくなってしまいます。白味噌には柚子を、赤味噌にはからし菜の変種である高菜の種で作った和の粒マスタードを添えました。小粒で、ツンとこないまろやかな辛さが特徴です。 あえて薄い味の昆布出汁で炊いたり、味のない昆布出汁をかけるなど、食べる側に気づいてもらえないかもしれないひと手間ならやる必要がないのでは? そう思われるかもしれませんね。お天道様は見ているじゃありませんが、見えないひと手間が最終的には目に見えるくらい大きな味の差を感じさせます。野菜料理を楽しみましょう。