「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」(東京ステーションギャラリー)レポート。デザイン界の巨匠が追求した暮らしとは?
食と空間をリミックス
本展は時系列に沿った構成ではなく、コンランの多彩な活動ごとに区切られている。そのため、2階に降りると、再び1950年代に戻ることになる。その頃からコンランはレストラン事業にも本格的に乗り出し、高級レストランからカジュアルなカフェまで50店舗以上を手がける。英国の伝統食材にハーブやスパイスを取り入れた「モダン・ブリティッシュ」と呼ばれる新しい料理スタイルをイギリスの食文化に根付かせたのも彼であった。さらに、1980年代後半からは、レストランのコンセプトや内装にとどまらず、ロゴやメニュー、灰皿、マッチ箱、さらにはスタッフの制服に至るまで、細部にわたってディレクションに行うことになる。2階の展示はその洗練された空間を覗き込むところからスタートする。
アイデアが生まれる場所
1970年代後半、コンランはバークシャー州キントベリーに建つ18世紀後半の赤レンガの邸宅「バートン・コート」を購入し、自宅とする。ここではガーデニングを楽しみながら、レストランのレシピ開発や雑誌の撮影を行い、ときには隣接する家具工房ベンチマークのためのスケッチに没頭することもあったという。東京駅の赤レンガをそのままデザインした2階の空間に設置されているインスタレーションを巡ることで、同じく赤レンガのバートン・コートの雰囲気に触れて、コンランのアイデアの源に出会うことができる。 2001年にコンランはバートン・コートにオフィスを移転する。2004年に撮影された仕事部屋の写真を背景に、実際の愛蔵品が展示されるエリアではコンランが創作に励んでいた空間を覗き込むこともできる。
日本におけるプロジェクト
1980年代から1990年代初頭にかけて、バブル経済に沸いた日本では華やかな消費文化がピークを迎え、建築やプロダクトデザインの分野でも世界的な評価を得る成果が次々と生み出されていった。そんななか、バブル時代の余韻が残る1994年に「ザ・コンランショップ」が日本に初上陸する。これを機に、コンランは日本国内の様々なプロジェクトにも関わりを持つようになる。このコーナーでは貴重な資料と関係者のインタビューが展示され、日本における活動を理解するための多くのヒントが提示されている。