「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」(東京ステーションギャラリー)レポート。デザイン界の巨匠が追求した暮らしとは?
イギリスのテイストメーカーの誕生
本展は、2階と3階で異なる展示構成が楽しめる仕組みになっている。展覧会が始まる3階には初期の家具やプロダクトが並び、住宅の一部を切り取ったような空間が広がる。 1950年代にイギリスで誕生したブリティッシュ・ポップ。その背景には、アメリカで発展した大衆文化に新たな可能性を見出したイギリスのアーティストたちがいた。その頃、ロンドンのセントラル・スクール・オブ・アーツ・アンド・クラフト(現セントラル・セント・マーチンズ)に在学していたコンランは、ブリティッシュ・ポップの先駆者であるエドゥアルド・パオロッツィからテキスタイル・デザインを学んでいたのである。 同時期に、イギリスを産業デザインのリーダー的存在へと押し上げた「Britain Can Make It」展(1946)や「Festival of Britain(英国祭)」(1951)が相次いで開催され、戦後のイギリスでは暮らしへの関心が再び高まっていた。戦後不況にあっても職を得たコンランは、英国祭で自作のデザインを発表したことをきっかけに活躍の場を広げ、テイストメーカーとしての評価を確立していく。3階では、そんな彼の足跡をたどるべく、人気食器シリーズ「チェッカーズ」やテキスタイルのパターンデザイン、初期の家具などが幅広く展示されている。
セレクトショップの革命
1952年にフリーのデザイナーとなったコンランは、1956年に「コンラン・デザイン・グループ」を設立する。そして、時代は1960年代に突入し、ロンドンは若者文化とともに爆発的に広がった「スウィンギング・シックスティーズ」の熱気に包まれる。時代の波に乗り、コンランもまた多岐にわたる事業を次々と展開していき、起業家としての手腕を発揮する。 1964年には、のちに斬新なデザインのライフスタイルショップのチェーンへと成長する「ハビタ」の1号店をロンドンにオープン。その成功を受け、1973年には「ザ・コンランショップ」の1号店を開店する。個性豊かな住環境を提案する「ザ・コンランショップ」のスタイルは、セレクトショップの先駆けとなり、イギリス国内だけでなく、日本を含む世界のデザイン市場にも大きな変革をもたらした。