ルーマニア発のファッションとは? 現地取材で感じた新たな“若手発掘の場”への期待
次世代のスター候補たち
私の印象に残ったのは、ルーマニアの美術大学で修士号を取得したレナータ・ミハリー(Renata Mihaly)でした。ルーマニアの伝統とローマ帝国を着想源に、タペストリーのような廃棄布とテーラリングを組み合わせたメンズルックが私的ベストです。ルーマニアの歌手の衣装制作を行うコスチュームデザイナーとしての道を進んでいますが、コマーシャルピースも見てみたいと思わせてくれました。
彼女と同じ、ルーマニア・クルジュに位置する美術大学を卒業したエイドリアン・ガブリエル・アンヘル(Adrian-Gabriel Anghel)と、ミハイ・クリスチャン・アンヘル(Mihai-Christian Anghel)の兄弟それぞれの、白無垢のような純白ルックにも目を引かれました。ヴィクトリア朝時代の精神性をテーマにした彼らのルックは、ドレープにプリーツ、パターンといった技術の高さが突出していて、東欧の「シモーン ロシャ(SIMONE ROCHA)」というイメージ。天使を意味する彼らの苗字から、メルヘンチックでスピリチュアリティあふれる世界観を表現するのは、宿命づけられているのかもと勝手に想像してしまいます。
もう一人は、クロアチア・ザグレブを拠点とするデザイナー、ヴィッコ・ラスティン(Vicko Racetin)です。クロアチアの90年代の着こなしと美的感覚を現代化させたという卒業制作のコレクションは、ノスタルジックとコンテンポラリーが交錯し、アイテム単体で見るとリアリティもあり好印象。ヨーロッパ・デザイン学院の代表者かも評価を得て、同学院フィレンツェ校への夏季短期留学への奨学金全額のサポートを授与されました。全てのルックそれぞれに創意工夫と技巧を凝らしたアイデアを感じ、荒削りなクリエイションの中に、ファッションに対する情熱と愛情が詰まっていて、東欧のクリエイティブ産業の明るい未来を見たような気がしました。東欧だけでなく、世界中の学生や若手デザイナーには、ファッション業界には目利きがあり、若手にチャンスを与えたいと思っている素晴らしいバイヤーがたくさんいるので、美的感覚と洗練さを磨き、視野を広げて、各々の個性を育くんでほしいです。成長した彼ら、と世界の舞台で再会できるのを楽しみにしています。