Netflixドラマ『クイーンズ・ギャンビット』で薬物依存症の主人公が飲んでいる「緑色の薬」の正体は?…実社会にもはびこる薬物問題
薬物中毒は評判の高いTV番組のコンセプトとして新しいものではない。が、Netflixの新シリーズ『クイーンズ・ギャンビット』のベス・ハーマンの薬物依存は、同じようにザラついたドラマの主人公の場合とはかなり様相が違っている。 【写真】話題のNetflixドラマ『クイーンズ・ギャンビット』のキャストたち 例えば、チェスの神童ベスが薬物を服用する習慣は、子どもの頃に母が亡くなって孤児院に送られた時から始まった。孤児院の子どもたちは毎日並んで“ビタミン剤”と称する赤と緑の錠剤を2錠受け取る。他には、シリーズを通して、薬物はベスに害を及ぼすのではなく、「頭をスッキリさせて」、自室の天井にチェスのゲーム展開をイメージできるようにし、グランドマスターへの道を模索するベスを助けているように描かれているのだ。 ベス(子どもの頃を演じているのはアイラ・ジョンストン)が緑色の錠剤の虜になるのに時間はかからず、結局それは精神安定剤だとわかる。ベスの依存症は、今では違法になっている錠剤の残りを薬品室でできるだけたくさん飲み込んだことを除いては、子どもたちを薬漬けにする孤児院を出て自由になれば終わるように思われた。 が、その後何年も登場する。ベスを引き取った養母(マリエル・ヘラー)は「平穏になるための薬」だと薬物に頼り、叶わなかった夢や結婚の失敗と折り合いをつけているのだ。アニャ・テイラー=ジョイ演じる成長してからのベスはすぐに自分用にその薬を抜き取って、元の依存症状態に戻っていった。 では、この孤児院や養母が使っていた薬とはいったい何なのだろう? 『クイーンズ・ギャンビット』に登場する“緑色の錠剤”についてまとめてみた。
「心の平穏を得る」緑色の薬は実際にあったもの?
ドラマでは、この薬はXanzolamと呼ばれているが、実在する薬ではない。が、『ニューズウィーク』誌は、リブリウムやクロルジアゼポキシドとして出回っていたベンゾジアゼピン系抗不安薬と酷似していると書いている。 『クイーンズ・ギャンビット』の舞台となっている1960年代に非常に人気があり、Xanzolamと同じように2トーンの緑色のカプセルだった。実際、チェスのトーナメントでメキシコに行った際にXanzolamがなくなり、ベスが地元の薬局でリブリウムを渡される場面がある。 リブリウムは1958年に特許を取得し、1960年に医療用として承認されて、不安神経症や不眠症、退薬症候群の治療薬として大量に処方された。使用が拡大していることが1970年代半ばに顕在化し、過剰処方と乱用の可能性が高いことから麻薬取締局はリブリウムにより厳しい規制を設けている。 こうした初期の精神安定剤は、20世紀半ばのアメリカで、肉体的には健康だけれど自分の立場に満足感を得られず精神的に苦しむ若い女性や主婦層に大量にマーケティングされたという。彼女たちの経済的自立や家庭の外でキャリアを築くのを助けるのではなく、当時の医師たちは苦痛を和らげる鎮静剤を次々と処方したというわけだ。