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エベレストに世界一高い気象観測所を! その過酷すぎる設置作業

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ナショナル ジオグラフィック日本版

 気候科学者であるトム・マシューズとベイカー・ペリーはエベレストに関する大規模な科学調査に参加するためにエベレストを訪れていた。その調査では、34人の科学者が、エベレストのさまざまな標高の地点や、隣接するクーンブ渓谷で野外調査を実施した。科学者のなかには地質学者、氷河学者、生物学者、地理学者、気候学者らが含まれていた。 ギャラリー:世界一高い場所での設置作業 「この調査は、地球を見つめるための新たな窓です」と、調査隊の隊長を務めた米メーン大学気候変動研究所のポール・マヨウスキー所長は話す。「エベレストで科学調査を行うなら、一つの分野だけでなく、数多くの分野の調査を同時に行うのが最良だと信じています」  マヨウスキーの指導の下、32歳のマシューズと44歳のペリーは、山頂で新たな科学の窓を開くため、53歳のパヌル・シェルパや地元のガイドチームと手を組んだ。彼らはベースキャンプ(5270メートル)周辺の2カ所に加え、さらに標高の高い3カ所にも自動化された観測装置を設置することにした。ウエスタン・クームの第2キャンプ(6464メートル)、サウス・コルの第4キャンプ(7945メートル)、そして山頂だ。観測装置が送信するデータは、最終的には世界中の科学者たちと共有することになる。 「気候変動は世界のさまざまな場所に、さまざまな影響を及ぼします」と、72歳のマヨウスキーは、ある午後、ベースキャンプの通信用テントで私に語った。「ここは温暖化が比較的早めに進行している大陸域の一つです。しかし標高5000メートルを超す場所で実際に何が起きているのかは、よくわかっていません」  アジア高山域の氷河の多くは、標高5000メートル以上に位置している。毎年、高所の盆地に降る雪は、比較的低い場所に降る雨とともに氷河の氷を補充し、最終的にはアジアの多くの人々に水をもたらす。しかし標高5000メートルを超す地点の信頼できる気象データはほとんどなく、研究者は気候変動がこの地域に及ぼす長期的な影響を予測できずにいる。  ヒマラヤの氷河では、雪の積もる場所での観測がほとんど行われていないと、マシューズは言う。「ヒマラヤの標高6000メートル以上で運用されていた気象観測所は、私の知る限り、数えるほどしかありませんでした。私たちが設置した時点では、皆無でした」  だが、高地での観測装置の設置には、さまざまな難題が立ちはだかる。標高7925メートルを超えると、人間は体内の酸素が不足し、運動のメカニズムを統制する能力や、複雑な意思決定をする能力が損なわれ、靴底に装着したアイゼンのストラップを締めるといった単純な作業でさえ、困難になる。 「登山者たちは、とにかく登頂し、何枚か自撮りして、できるだけ早く下山したいと考えます」と話すのは、エベレストに7回登頂し、ナショナル ジオグラフィック協会と時計メーカーのロレックスによる調査チームのリーダーを務めるピート・アセンズだ。一方、気象観測所を設置する作業は、「頂上にとどまり、車を組み立てるようなものです」 ※ナショナル ジオグラフィック7月号「エベレスト 世界一高い気象観測所」より抜粋。

文=フレディ・ウィルキンソン/ライター・登山家

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