中村橋之助、来年1月に初主演映画公開でブレイクの予感「歌舞伎にも興味を持っていただけたら」
歌舞伎俳優の中村橋之助(28)が来年1月10日公開の「シンペイ~歌こそすべて」(神山征二郎監督)で映画初出演にして初主演を飾る。「シャボン玉」「東京音頭」など約2000曲を世に送り出した作曲家・中山晋平の一代記。未経験から3か月の猛特訓でピアノを習得し、18~65歳の晋平を演じた。来年1月2日に開幕する若手の登龍門「新春浅草歌舞伎」(東京・浅草公会堂、26日まで)には座頭として出演する。(有野 博幸) 「日本の歌謡曲は、この男から始まった」とも言われる名作曲家を演じた。橋之助は18歳で故郷の長野から上京し、音楽に生涯をささげた晋平について「音楽に対する真っすぐな姿勢だったり、素直な人柄は自分に似ているのかな。やりづらさは全くなかった」と振り返る。 中村芝翫(59)、三田寛子(58)夫妻の長男として生まれた名門「成駒屋」の御曹司。歌舞伎で鍛えた演技力に加えて、生まれ持った品の良さも評価されてオファーを受けた。「素直にうれしかったですね。映画は初挑戦ですが、プレッシャーというよりワクワクの方が大きかった。役者として、これまでやってきたことを発揮して、すてきな作品にしたいと思いました」。必要以上に気負うことはなく、心を躍らせた。 「シャボン玉」の作詞家・野口雨情役の三浦貴大(39)、「東京行進曲」「東京音頭」の作詞家・西條八十役の渡辺大(40)とは「2世俳優あるある」を語り合い、打ち解けた。「自分は知らなくても、相手からは知り合いのように話しかけられることが多いんです。母(三田)が三浦さんのご両親(三浦友和、百恵さん)に会ったことがあるので、『僕たちも幼い頃に会っていたかもしれませんね』と話しました」 「ハチ公物語」(87年)、「遠き落日」(92年)、「ひめゆりの塔」(95年)などで知られる巨匠・神山監督からは「教科書に載るような伝記物ではなく、エンタメとして楽しめる作品にしたい」と言われた。「魅力的な人物として晋平を演じたいと思いました。18歳から65歳まで演じましたが、無理に話し方を変えたりはしていません。『どれだけ人生経験を重ねたのか』を思い浮かべながら自然体を心掛けました」 3か月の猛特訓でピアノを習得した。「鍵盤(けんばん)で『ド』の位置がどこにあるかも分からないので、ドレミファソラシドのシールを貼りました。両手で弾くことなんて考えられなくて、最初の1か月は右手だけで、その次に左手だけ。いろんな曲が弾けるようになると、楽しくて、やる気が湧いてきました」。劇中では歌声も披露しているが、ミュージカル出演時に受けた歌唱指導を思い出して、「カチューシャの唄」を歌った。 全国公開を迎える1月は「新春浅草歌舞伎」に出演する。「映画で僕のことを知ってもらいたいですし、それをきっかけに歌舞伎にも興味を持っていただけたら。劇場に足を運んでいただけたら、うれしいです」と力を込めた。 「新春浅草歌舞伎」は前回で尾上松也(39)らが卒業し、橋之助を中心とした世代にメンバーが一新される。弟の中村福之助(27)、中村歌之助(23)らと昨年から始めた自主公演「神谷町小歌舞伎」を成功させた実績も評価され、座頭となり「公演全体のことを考えないといけない立場。松也兄さんから『自分から動いた方がいい』と言われたので、積極的にアイデアを出していきたいと思っています。性格がザ・長男なので、まとめ役は得意な方だと思います」と胸を張る。 第1部で「仮名手本忠臣蔵 道行旅路の花聟(はなむこ) 落人」の早野勘平、第2部で「絵本太功記 尼ケ崎閑居の場」の武智光秀を演じる。光秀は一座の重鎮格が演じる時代物の大役だ。「いつかやりたいと憧れていたお役です。まさか20代で演じられるとは思いませんでした。すごくいい経験になると思うので、しっかり勉強したいと思います」。第1部では市川染五郎(19)が同じ役を勤めることになり「確実に色が違うので、その違いも楽しんでもらえたら」と呼びかけた。 11月には中村莟玉(28)、中村鶴松(29)らと決起集会を行った。「ジンギスカンを食べて盛り上がりました。上演前の『お年玉ご挨拶(あいさつ)』のやり方とか、いつか挑戦したい演目を語り合いました。この一座がどんな色になっていくのか、とても楽しみ。高め合いたいですね。嫌な思いをする人がいないように、何かやるときは一人ずつに説明して、全員が納得してから進めるようにしていきたい」と頼もしい。 来年1月は主演映画が公開され、歌舞伎でも大役を勤める。2025年は橋之助にとって飛躍の年になりそうだ。 ◆「シンペイ~歌こそすべて」 明治、大正、昭和に「シャボン玉」「ゴンドラの唄」「東京音頭」など約2000曲を残した作曲家・中山晋平(橋之助)の生涯を音楽とともに描く。長野で育った晋平は、早大の教授・島村抱月(緒形直人)の書生として上京。3年後に難関の東京音楽学校(現・東京芸大)に入学する。借金を重ねながらも卒業した晋平は、舞台「復活」の劇中歌「カチューシャの唄」を作曲。看板女優の松井須磨子(吉本実憂)が歌った曲は大ヒットを記録した。127分。 ◆中村 橋之助(なかむら・はしのすけ)本名・中村国生(くにお)。1995年12月26日、東京都生まれ。28歳。父は8代目中村芝翫、母は三田寛子。2000年9月、歌舞伎座で初舞台。16年10月、歌舞伎座で4代目中村橋之助を襲名。歌舞伎以外ではTBS系ドラマ「ノーサイド・ゲーム」(19年)、舞台「サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男」(21年)などに出演。屋号は成駒屋。
報知新聞社