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晩酌前、火の神に無病息災願う 子はアイヌとして 儀式で民族の自覚深め

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 3月のある日の夕方、読経のような低い声でアイヌ語が響いた。北海道浦河町の団地の一室。八重樫志仁さん(57)が台所に立ち、儀式を始めた。  カムイフチ、シパセカムイ(火の神、とても重要な神様)…。コップに注がれた焼酎に、文様の入ったへら状の木製祭具「イクパスイ」の先を浸す。イクパスイに染みた酒をこんろの火に振りかける。炎がぼっと立ち上がった。神に願い事をする儀式「カムイノミ」だ。  身の回りの動物や自然は、天上の神(カムイ)が姿を変えて降りてきたもの―。アイヌ民族は、伝統的にそう信じ、祭りなどの行事にとどまらず、日常でも感謝や祈願の儀式をしてきた。だが、明治政府による同化政策以降、その多くは伝承されず、近年ようやく復活の兆しが見られるように。八重樫さんは日々の暮らしに取り入れて、伝統を子に継承しようとするアイヌの一人。背景には文化復興への強い思いがあった。(共同通信=石嶋大裕)  火に神が宿るのではない。火それ自体が神。神はたくさんの物をつくり出せるが、酒は造れず、人間からもらう。カムイノミで酒をささげる理由を八重樫さんはそう説明する。お願いするのは「旅行でけががないように。子どもの受験がうまくいくように」。願いは火の神を通して、目的に応じた神に届けられる。

 八重樫さんは小さいころから両親に「おまえはアイヌだよ」と言われて育った。が、伝統文化を伝えられることはなかった。中学に入ると「アイヌ、アイヌ」と言われ、からかわれた。アイヌであることにネガティブな意識を抱いていく。  「僕らの世代は『失われた世代』。親がアイヌ語を話せても、教えてくれなかった。差別が激しい時代だったから」  高校や大学では民族のことには関わらなかった。東京の就職先の近くにあった古本屋でたまたま見つけた本を読み、アメリカの先住民族とアイヌの境遇が似ていると感じたことが興味を持つきっかけだった。それからは、地元で文化の伝承者と言われる人などを訪ね、民族としての自覚を深めていった。  でも、民族って何だろう―。そう思って振り返ってみると、からかわれた経験がアイデンティティーの礎になっていた。「僕のアイヌとしてのアイデンティティーは日本人から差別され、日本人じゃないんだなという感覚として生まれた。そうでなければ日本人と同化していたかもしれない」

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