身に覚えのない「79万7484円の詐欺・窃盗」の疑いで“自衛官の退職金”が「差止め」? 裁判所が下した「判断」とは
「犯罪行為に該当する事実」の立証は「相当程度の確証」で足りるのか?
被告(国)側の主張によれば、総務部の調査の結果、A氏が2016年4月~2019年2月の間に少なくとも2053食分(合計79万7484円相当)の過少申請をしていたことが認められ、かつ、他の隊員等の供述もあったため、「詐欺罪」または「窃盗罪」にあたることについて「相当程度の確証」をもって、A氏に対する処分を行ったという。 裁判所は判決で、被告(国)側の主張を容れ、処分を下すにあたっては「相当程度の確証」があれば足りるとし、陸上自衛隊側の調査・立証に違法性はなかったと判示した。 この判示に対し、指宿弁護士は、犯罪行為に該当する事実を根拠として処分を行う場合には厳格な立証が求められてしかるべきだと述べる。 指宿弁護士:「犯罪の嫌疑をかけられ、退職金を一時的とはいえ受け取れないという重大な不利益を与える処分なので、『相当程度の確証』で足りるとすべきではない。 刑事事件で嫌疑を立証できる程度の証拠を揃える必要があるはずだ」
「相当程度の確証」を得るための「調査・立証」はどのように行われたか
では、陸上自衛隊側で「相当程度の確証」を得るための調査・立証活動はどのように行われたのか。 裁判所の事実認定によれば、総務部は、A氏に対する退職手当等の支払い差止め処分を行う前提として、事実関係を立証するため、「喫食状況の撮影画像の確認」「給食班隊員らに対する聞き取り調査」等を行っている。 まず「喫食状況の撮影画像」によれば、A氏が隊員らからの申告を受けて作成し総務課に提出した「有料喫食申込一覧表」に申し込みのない日に、隊員が「有料喫食」の食事をとっている「可能性」があることが確認されたという。 また、「聞き取り調査」において、「基本的にすべての出勤日に有料喫食を申し込んでおり毎月約20食の申込みをしている」と答えた「隊員A・B・C・D」について、A氏作成の「有料喫食一覧表」の申込数が出勤日より少ない数だったことが確認されたという。 指宿弁護士は、この調査内容が不透明で、信用性も低いと指摘する。 指宿弁護士:「月に20日出勤している隊員が、すべての日に有料喫食の申し込みをし、自衛隊の食堂で有料喫食をしているという前提が間違いだ。 弁当を持ってくる人もいる。自衛隊内にはコンビニもあり、弁当なども売られている。体調が悪くて食べない人もいるし、勤務の都合でお昼ごはんをとれない人もいる。 それを判決はわかっていない。 たとえば、20日出勤した人が10日分しか申し込みしていなかったから『A氏が10日分ズルしたのだ』という認定をしている。 しかも、その認定の根拠とされた各隊員からの答申書は、『隊員A、B、C、D』と名前を伏せて提出されている。国側は隊員の名前を明らかにすることを拒んだ。 この隊員たちへの証人尋問を申請しようにも、名前が分からず、できなかった。 もし隊員の名前を出せず、証人尋問で供述内容の信頼性をチェックすることができないならば、そんな答申書には証拠価値が乏しい」