生き残ることが“成功”か――「かせぐ」に挑む小さな町の改革と住民のリアル #ydocs
2回目の物価高騰対策、結果は…?
異論が噴出した1回目の物価高騰対策から約8か月後の9月。町は2度目の対策を講じた。 今回は町民に限定し、世帯単位で5000円分のデジタルクーポンを配布。原資の一部には、町役場の職員たちが「かせいだ」交付金が充てられている。クーポンは、スマートフォンのほか、町配布のタブレットでも利用できるようにした。 高齢の町民は今回のクーポンを利用できているのだろうか。実態を取材するため、行商トラックで生鮮食品や加工品を販売している「まるみつ食品」の古沢健也さん(63)に同行した。古沢さんは行商をしていた父やおじの背を見て、19歳からこの仕事に就いたという。今年で44年になる。車同士がやっとすれ違うことができるような細い町道を通り抜け、常連客の家の前で車を止めて販売開始する。客の多くは高齢者、昔なじみの住民ばかりだ。 初めてデジタルクーポンを使うという60代の男性が、自前のスマートフォンを持ってやってきた。最初に、町から配布されたIDとパスワードを入力してログインする必要があるが、アルファベットの大文字の打ち方が分からないという。古沢さんもタブレットであれば入力方法が分かるのだが、スマートフォンになると、機種ごとに操作方法が異なるため少し勝手が違うようだ。 60代男性「間違ってる? もう一回最初から入れるか」 古沢さん「こういう風になるのよー」 結局、男性がクーポンを利用できるようになるまで10分近くの時間がかかった。 また別の場所でも、やはり初めて電子クーポンを使うという高齢者の女性がやってきて、タブレットを古沢さんに渡した。すると、古沢さんは「5000円入れるね。5000円分買わなくても、5000円分もらったことにして」と話しながら、入金額をノートに書き写す。次回はタブレットなしでもクーポンが使えるよう、柔軟に対応しているのだという。古沢さんと住民の信頼関係があればこその商売だ。 電子クーポンの使い勝手について、一人暮らしだという80代の高齢男性にたずねてみると、「使えない。タブレットで表示できない」と困惑していた。古沢さんによると、高齢者の中には訪問介護のスタッフに商品の購入を依頼するケースもあるという。一方、町も電子クーポンの利用期間中は職員がトラブルに駆けつける対応を取ったり、店側に使い方を周知したりした。その結果、デジタルに不慣れな住民も多い中にあって、その利用率は95%を超えた。町によると、3年前に紙の商品券を町内の個人に対して配布した時に比べ、7ポイントほど上回る利用率だという。 菅野町長も高い利用率に手応えを感じているようで、「デジタルクーポンは今回、かなり使われたので、それがなぜなのかというところを、データだけでなく、対話を通じて検証していきたい」と振り返った。