生き残ることが“成功”か――「かせぐ」に挑む小さな町の改革と住民のリアル #ydocs
町のデジタル化も進める
国は地方の生産性を高めることなどを目的に、デジタル化を推進している。全国自治体でも「書かない窓口」などをキャッチフレーズに申請の電子化が進んでいる。「かせぐ」ためにデジタル技術を積極的に活用している西川町も同様の取り組みをしているが、それを役場内だけにとどめていないのが特徴で、町内約1700世帯にタブレット端末を配布した。 その理由について、同町企画財政課の黒田宜雄課長補佐は「デジタルを使って、だれ一人取り残さない仕組みを作りたい。防災情報の配信や町民と町をつなぐ機能もあるので配布した」と語る。町内で1人暮らしをしている女性(82)は「1人暮らしは不安といえば不安。タブレットが身近にあれば安心だと思う」と話していた。 ちなみにタブレットの配布には2億円の費用がかかったが、国のデジタル田園都市国家構想交付金と企業版ふるさと納税でまかない、住民の負担はゼロに抑えたという。 なお、町の当初予算は、23年度の66億5800万円から今年度は過去最大の約74億7800万円に大幅増加しているが、一方で基金の取崩額は前年度の5億9767万円から3億2234万円に半減させている。これは徹底した国の補助金獲得が実を結んだ結果と言えるだろう。
割れる住民の評価
山あいの小さな町で次々と新しい取り組みを進める菅野町長の行政手腕に対する外からの評価は高い。一方で、西川町の人々はどう評価しているのだろうか。町民に話を聞いてみた。 町が実施する“対話会”に頻繁に参加しているという70代の男性は「いろいろなことを結び付けるノウハウを持ってらっしゃるので、すごく頼もしく思う」と語る。一方で、会合にはほとんど参加したことがないという80代の男性は「いまの町長ダメだ。ちょっと、ワンマンすぎて。町民はものすごく反感を持っている。おかしい所に全部お金を使って。ダメだ」とバッサリ。住民の評価は割れているようだ。 実際に、タブレット配布前の今年1月、町が実施した物価高騰対策を巡って異論が噴出したこともあった。町はスマートフォンを利用した電子決済サービスを活用。電子決済の金額に応じて最大30%・6万円分のポイントを還元する仕組みで、町外の買い物客も対象とした。県外資本の大手量販店もこのキャンペーンに参加した。 ポイント還元のことを知って新潟県から訪れたという買い物客に、この量販店の中の様子を聞いてみると、「すごい混んでいた。棚が空っぽの所もあった。普段はそんなことを目にしたことはない」と話していた。 高齢者や地元商店の関係者は、小さな町では表立った反対の声は上げにくい。 そんな中、匿名を条件に取材に応じてくれた住民たちは憤りの声をあげていた。 町内会役員の70代男性は 「ポイントをもらうためにスマホを買うかと考えても、毎月の使用料や端末料金など結構なお金を払わないといけないので『ポイントどころではない』とあきらめた人が多いと思う」と話した。また、60代の主婦は「私たちの町は高齢化率が山形県内で一番高く、スマートフォンを持っている高齢者は少ないと思う。もどかしい。こんなに小さな商店街で、あそこ(大手量販店)だけ一極集中というのはあってはならないと思う」と語った。 大手量販店の他に、コンビニエンスストア、地元大手のガソリンスタンドなど、チェーン店・フランチャイズ店などが利用額の多くを占め、地元商店の関係者からは「恩恵は限定的だった」との声も漏れ聞こえた。