SMAPと日本文化の30年
人生というドラマ
そして解散騒動の前後、彼らはきわめてリアルな、人生のドラマを演じた。周辺の事情からも、演じざるを得なかった。 その結果、彼らのマネージャーと事務所とのあいだに強い軋轢があったこと、また彼らの内部にも意見の不一致があったことが伝わってきた。 多くのファンが心を痛めた。 夢の代行者は、一転、苦悩の代行者と化した。 真相は分からない。 裏情報を探ることは本論の目的ではない。 堕ちた偶像のあら探しをするような情報とは逆に、僕は、SMAPの魅力はその角逐にあったのではないかと考えた。 彼らは単なる仲良しグループでも、事務所に操られるままのロボットでもなかったのだ。事務所とマネージャーとの軋轢に悩み、グループとしての役割と個人としての意思の葛藤に悩む、つまり血も涙もある「個性的な人間」であったのだ。 むしろその苦悩が、芸に深みを与えていたのではないか。一人一人の個性が際立った理由も、他のアイドル・グループとは異なるオーラの理由も、そこにあったのではないか。 そして今回、グループとしての活動は一応の終焉を迎えた。 五触覚の獏は地に斃れた。 しかしそれぞれの芸能活動は続く。人間生活も続く。再結成を信じるファンも少なくない。たとえ離れているにせよ、彼らが「真の花」を目指して歩みはじめるとき、五触覚の獏は再起する。 そこにどんなドラマが生まれるのか。 すでに舞台の幕は上がっているのか。 いずれにしろわれわれは、この30年を、このグループとともに記憶することになるだろう。 考えてみればわれわれ自身、この夢の実現しにくい30年を、軋轢と葛藤を噛みしめながら歩いてきたような気がする。 ---------- 注 *1:事務所を離れることを支持するファンもいる *2:世阿弥『風姿花伝』 *3:SMAP:Sports Music Assemble People *4:『アイドルはどこから―日本文化の深層をえぐる』(現代書館) *5:モーセの留守中にイスラエル人が「金の子牛」をつくって崇めていたのをモーセが怒って打ち壊したという話のように:旧約聖書・出エジプト記 *6:『共同幻想論』でよく知られる吉本隆明の用語:主として国家論で、個人と集団の心理関係に重点が置かれる *7:『サピエンス全史』ユヴァル・ノア・ハラリ著・柴田裕之訳・河出書房新社:広範な「知」の歴史であるが、虚構、神話、想像などに重点を置いている *8:平尾昌晃、山下敬二郎、ミッキー・カーチスはロカビリー三人男と呼ばれた *9:「冷戦」とは欧米の概念で、アジアや中東では熱い戦争であった *10:フランシス・フクヤマが『歴史の終わり』で書いたように *11:その時代を牽引する思想的概念:筆者の造語で一般的な用語ではない *12:アーネスト・ヘミングウェイ、スコット・フィッツジェラルド、ウィリアム・フォークナーなど *13:ドラゴンボールのヒーロー *14:曲や歌詞を入力することによって歌わせることのできるバーチャル歌手 *15:虚実皮膜論:芸の本質は、虚構と現実のあいだにあるという近松門左衛門の芸能論