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【木内前日銀政策委員の経済コラム】 医療保険、「2022危機」待ったなし 資産ある高齢者は応分の負担を

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コロナ理由に改革先送りするな

 昨年から議論されている医療保険制度改革について、当初政府は、今年夏までに「最終報告」を取りまとめる予定だった。しかし、新型コロナ問題の影響などから、年末まで先送りされることが既に決まっている。  一方、7月には「中間報告」が策定されるが、そこには、最大の焦点となっている医療保険給付の抑制策などの方針は盛り込まれず、マスクの確保やオンライン診療の支援といった新型コロナ問題対策に内容が集中する見通しだ。  医療保険制度改革では、当初は、75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担を現在の1割から2割へと引き上げる案に加えて、すべての病院で受診時に100円など一定額を負担する制度、いわゆる「ワンコイン負担」の新設なども議論されていた。  しかし自民党の支持団体である日本医師会が患者の負担増に反対したことなどから、当初の改革案は大きく修正を余儀なくされた。すべての病院で一律に負担するワンコイン負担制度の導入は、議論から落ちてしまったのである。  他方、昨年末の全世代型社会保障検討会議では、民間メンバーから窓口負担を2割へと引き上げる案に賛成が集まった。ただし、2割負担となる所得の基準については、結論は先送りされたのである。所得基準の設定次第では、新たに2割負担となる対象者から強い反発が出てくる可能性があり、政治的にはクリティカルな問題だった。  さらに新型コロナ問題の影響で経済が悪化する中、国民に追加の負担を求める議論は進めにくい環境となっている。その結果、所得基準の決定は、年末まで実に1年間も先送りされる可能性が出てきている ▼「2025年問題」「2040年問題」もやってくる  一方で、抜本的な医療保険制度改革は、まさに待ったなしである。2022年度には、団塊の世代が75歳の後期高齢者に入り始めることで、現行制度の下では給付総額が一気に高まることになる。これは「2022年危機」とも呼ばれている。  また、2025年には団塊の世代がすべて75歳以上となる。これは「2025年問題」とされる。さらに、2040年以降は、保険料支払いで制度を支える現役世代が大きく減少を始める「2040年問題」が待ち構えている。  「2022年危機」にしっかりと対応するには、今回が最後の機会であり、それを逃してはならない。  一方、2割負担の実施が決まっても、国民からの反発を恐れて、所得基準をかなり高めに設定して対象者を絞り込めば、医療保険の財政改善効果は限られ、見かけだけの改革に終わってしまう。  所得水準を基準に後期高齢者の医療費の窓口負担を決めることには、再考の余地があるのではないか。所得水準が低くても、資産を多く持っている高齢者は少なくないためである。所得のみならず資産も考慮に入れた「応能主義」を適用していくことが、医療保険制度に限らず、社会保障制度全般の改革で重要なことではないか。  所得、資産の双方を考慮して、支払い能力のある後期高齢者に医療費の窓口負担をより求めて行けば、患者が負担増加によって必要な診察を控えるといった、一部で指摘されるような弊害は生じないのではないか。  他方、そうした改革が、医療保険制度の財政環境の改善に繋がれば、制度の安定性は高まり、個人が将来不安から消費を過度に抑えるようなリスクも低下しよう。それは、経済面からのコロナ対策ともなるのである。  こうした点も踏まえて、政府は問題をこれ以上先送りすることなく、「2025年問題」への対応をしっかりと踏まえた、抜本的な医療保険制度改革の具体策を早急にまとめて欲しい。 ■木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト) 1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。

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